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第十八話 ゴクウと皇帝大頭

申七星ハオ チーシンよ。50年ぶりだな」


 申七星ことゴクウは50年ぶりに、中華帝国皇帝、黄帕克フォン パカと再会した。帝京ディキン城は見事に復元されていた。昔はコンクリートで建てられたビルはすべて消えていた。広い緑のじゅうたんのような森が広がっている。

 ゴクウは跪いている。目の前には巨大な木が生えていた。城の中に雲を突くような高さである。そして木の幹には人の顔があった。人面樹のようである。

 周囲にはビッグヘッドたちが畏まっていた。全員人語を理解する皇帝の家来である。


「はい、ご無沙汰しております。陛下のご尊顔を生きて拝見できたことに感涙しております」


「ははは。そなたは大げさだな。朕が米国人の作った爆竹如きに命を落とすと思ったか? 天は朕を見放さず、大地を生み出した女神に愛されておるのだからな。もっとも我が国に屈辱を与えた日本人の叡智のおかげでもあるがね」


 50年前、皇帝はキノコ戦争に巻き込まれた。世界中に巨大なキノコが生えて毒の胞子をばらまいたのである。

 本来皇帝はそこで死んでいた。だがビッグヘッドに喰われたのだ。キノコの胞子がしみ込んだ石や木、鉄などを彼等は数年かけて食べていく。

 その際に神応石スピリットストーンも一緒に食べていた。神応石は人間の額にある砂粒ほどの大きさしかない石だ。

  普通は神応石が集まっても何も起きない。遺伝子組み換えによってひたすらキノコの毒を浄化するため、汚染された石や鉄などを食べ続けるだけだ。後は汚染された水を飲み、水が多い場所で木に変化して一生を終える。それだけだった。


 だが皇帝はビッグヘッドに取り込まれたとき、自我を取り戻したのだ。これは龍京ロンキンの守護者エビルヘッドと同じである。本来は人語など一切理解せず、遺伝子に刻まれた命令だけを遂行するだけだった。

 皇帝はビッグヘッドになっても、カリスマを失わなかった。彼は帝京城を立て直した。そして自身は城に根を下ろす。そして現在に至るのだ。

 今は皇帝大頭ホアンディダトウと名乗っている。外国ではエンペラーヘッドと呼ばれていた。


「私は怪物大頭グアイウダトウの生みの親と知り合いました。その者が言うには本来怪物大頭にそのような機能はないとのことです。やはりキノコ戦争によって不具合が生じたとしか言いようがないそうです」


「なるほどな。だが朕は今こうして生きておる。七星もな。今はそれで十分ではないか」


 ゴクウは沈痛な面持ちだが、皇帝はあっさりしている。あまり深く考えないのが皇帝なのだろう。自分がいるだけでいい、それだけで民は明日を信じて働ける。それが皇帝だと理解しているのだ。


「後は朕の力だ。見てみるがよい」


 そう言うと木の根っこから巨大なキノコが生えてきた。白っぽいクラゲのような柔らかそうなキノコだ。そこには皇帝と同じ顔がある。


「これも朕だ」


 キノコがぼそぼそした声で答えた。キノコは地面や木に菌糸体というものを張り巡らせている。そして子実体を生やすのだ。

 今の皇帝は帝京の周りに根を張っている。自分の分身体であるキノコを生やすことが出来るのだ。

 そのキノコは自分が見聞きした物を本体である皇帝の耳に入る。皇帝は根を張り一歩も歩けないが、キノコたちのおかげで広い世界を見聞きすることができるのだ。

 これができるようになったのは数年前に日本、現在はアマテラス皇国から花主人フラワーミストレスという異形が特使としてやってきた。自分の本体は大頭城ビッグヘッドキャッスルといい、強く念じれば花やキノコに自分の意志を宿せるという。頑張って試したら自分の意志を宿すキノコが生えた。現在は中華帝国全土にキノコを生やすことで情報収集などを可能としている。


「数十年前には龍京の龍虎鳳ロン フーフォンが挨拶に来たぞ。朕に忠誠を誓ったな。そして龍超人ロン チャオレンを朕に仕える大臣として任命したぞ」


「……その龍超人は数日前に殺されたようです」


 龍京にとって開祖である龍英雄ロン インシオンの息子である超人が最高なのだ。だが年配は中華帝国皇帝を崇拝している。英雄とは悉く比べられ、皇帝には頭が上がらないように教育された。超人が不満を抱き、龍京を憎むようになったのも仕方がない。


「弱い者が死ぬのは当然のことだ。だが今の世の中、何が起こるかわからん。もしかしたらひょっこり生き返っておるかもしれんぞ。己の怨念を晴らすためにな」


「実は、その超人は生きております。正確には18歳の時の記憶のみを受け継いでおりますが……」


「なるほどな。天がその者を生かしたのであろう。朕の敵にならなければ問題はない」


 皇帝にとって超人など眼中になかった。龍京も広大な中華帝国の一部に過ぎず、超人は大臣と称しても実質は地主と同じ認識であった。


「それはそうと维诺姆ウィ ノウモウも生きていたぞ」


「……存じております。私を改造した者の仕事でございます」


「そうか。あ奴は朕の忠誠心は高く仕事熱心だが、如何せん朕を崇拝しすぎだ。民はおろか、自分すらないがしろにしておる。だがあ奴が暴走してしまうのは無理がないのだ。あ奴の両親は朕を守って日本軍に殺された。そして朕は日本軍の傀儡にされたのだ。その時の無念と屈辱を晴らすために朕を中華帝国最高の存在に昇華させようとしたのだろう」


 それはゴクウも同じであった。ゴクウの両親はそれなりに地位の高い身分だったが、皇帝と隔離された。戦後は息子に対し皇帝の支えになるように教育したのだ。

 その間维诺姆は民から税金を搾り取り、芸術品をかき集めては売りさばいた。過去の遺産はすべて破壊し、現皇帝を崇めるよう指示したのだ。

 そして核開発に力を注ぎ、黄龍フォンロン県より北部にある玄武ヘイウー県のラジシャン砂漠に核実験を始めた。砂漠には龍一族が住んでいたがまったく無視している。数千人の部族は核の炎に焼かれ、身体を蝕む結果となったのだ。


「あ奴は米国人が好きな西部劇の格好をしておったな。そして不思議な力で朕に忠誠を誓うキョンシーどもを生み出しているそうだぞ。正直これはいかんな。朕は意見を口にしない人形など欲しくない」


 皇帝はきっぱりと言った。広大で人口十億人以上を抱える中華帝国は皇帝の独裁政治があっているのだ。資本主義だと法を決めるのにやたらと時間がかかる。独裁なら独裁者の一言で決まるからだ。これは後継者の問題があるが、現在の皇帝はある意味不老不死を得ている。ビッグヘッドの寿命は短いが松級パインクラスなら知性も高く寿命が長い。

 ちなみに階級はバオバブが付けた。松竹梅にちなみ、松級、竹級バンブークラス梅級プラムクラスとなづけたのだ。松竹梅は本来、三つとも寒さに耐えるところから、歳寒の三友とよび、めでたいものとして慶事に使われていた。どちらが優れているというわけではない。


「七星よ。あ奴を救ってやってくれ。国にとって朕は空であり大地である。だが民草なしでは国は命を保つことが出来ない。あ奴のやり方ではただ躾けられたとおりの芸しかできん。龍京のようにかつてのシルクロード復活を目指す発想が生まれないだろう。あ奴の人生に決着をつけてやってくれ」


 皇帝に頼まれるとゴクウは嫌とは言えない。言うつもりは毛頭なかった。

 ゴクウ自身、维诺姆はやりすぎていると思ったが、同時に皇帝の忠誠心高さに感心していた。1970年に彼を死刑に追い込んだのは、あくまで皇帝の手で名誉ある死を与えたかっただけだ。

 自分は環境大臣として長生きをしたと思うが、歴史に名を残せるとは思っていない。

 日本企業と手を組み、ビッグヘッド製造に力を貸したのは、使用済み核燃料の処理を皇帝の功績にしたかったのだ。自国に有利になるならかつての敵国と手を組んでも平気であった。

 だが1999年にキノコ戦争が起きて、世界は妬きつくされた。自分は人造人間メタニカルアニマルに改造されて復活し、皇帝も怪物大頭として復活した。

 皮肉なことだがかつて中華帝国を蹂躙した日本人のおかげで、皇帝は不老不死を得て、世界征服の機会を得ることが出来たのだ。


「仰せのままに」


 ゴクウは首を垂れた。皇帝は维诺姆を嫌っていない。だがやりすぎるので消さざるを得ないのだ。ゴクウは皇帝の心の中に住む维诺姆に嫉妬していた。私怨はない。

 自分はただ皇帝の命令を聞くだけだ。それだけが自分が生まれてきた意味なのである。



「ゴクウさん!!」


 ヒュー・キッドが叫んでいる。なぜ自分をかばったのか疑問を抱いているようだ。

 別にかばったわけではない。確かに皇帝陛下を間接的に殺害したが、結果として陛下は皇帝大頭として復活したのだ。あの方は不老不死となり、世界征服の可能性を生み出すことが出来た。

 

 それに本人ではないが、自分を蘇らせてくれたのだ。もっとも维诺姆もおまけに復活させたのは余計だったが。


「なっ、なじぇだぁ!! にゃんでわだじを、ごろずぅ!!」


 モンローセンプは喉を噛まれて、まともに言葉が出ない。だから私は念話で答えてやった。


 お前の死を皇帝陛下が望んでいるからだ。


 するとセンプは目を見開いた。それは絶望ではない、喜びに染まっていたのだ。


「ぞうが……。へいがじしんが、わだじにしにぇと……」


 センプは感動の涙を流している。この男にとって一番の幸福は陛下の為に働くことだ。そして最高の不幸は陛下に無視されることである。死を望むと言われても陛下の心の中にはセンプがいる。そのことをこの男は理解しているのだ。


「でずが、まだしにぇましぇん。ざぎに、あのよへ、いっでぐだざい」


 そう言ってセンプは私の額に右手の人差し指と中指を突き立てた。

 まずい、こいつの能力を近距離で受ける羽目になる。とても躱せない。


「あなだはどれいにじないよ。でぎないんだ。めだにがるあにゅまるをあやづるごとはでぎないんでず……」


 目の前が真っ赤になった。目に血が入ったようである。どうやら私の人生はここまでのようだ。後は頼んだぞヒュー・キッド。世界を滅ぼし、世界を再生した者よ。最後まで責任を果たしてくれ。それがお前の償いになるのだから。

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