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第十五話 荒野の蜘蛛男

1970年、中華帝国の首都、帝京ディキンにおいて、维诺姆ウィ ノウモウの公開処刑が行われた。

 维诺姆は中国の宰相であった。上流階級の维家の当主で、45歳で中肉中背の中年だ。黒と白の縞々の囚人服に、絞首刑台に立てられている。身体を鍛えており、日焼けした肌は岩のように黒い。

 帝京城広場で死刑が執行されるので、大勢の人間が集まっていた。维诺姆は中国において大虐殺を行った男だ。

 現皇帝、黄帕克フォン パカの世話役だったが、皇帝の名を借りて悪行三昧を行ったのだ。

 

 皇帝が生まれる前の美術品を集めては焼き払い粉々に砕いた。そして歴史のある寺は次々と焼き払い、新しく皇帝の為に寺を作った。

 農業に関しても米をタダで食べる害虫や害鳥をすべて処分するよう命じた。そのために生態系が狂い、蝗害こうがいによって飢饉が起きたという。

 おかげで一億人以上の餓死者が出たのだ。国際社会では飢餓の為に寄付を行おうとしたが、维诺姆は頑として受け取らなかった。皇帝がいるのだから国民が飢えて死のうが本望であると突っぱねたのである。


 さらに他国の考えを広める人間は徹底的に弾圧した。外国の考えを否定し、宗教を潰して回った。欧米のオルディネ教や中東のタルティーブ教の信者たちを帝国軍を使って虐殺した。さらに小国を次々と皇帝の名で攻め入ったのである。


「宰相、维诺姆。そなたは朕のためといいながら、朕の影で大勢の国民を死なせ、他国の人間も殺してきた。そなたの悪行は許しがたい。よって死罪を言い渡す」


 皇帝、帕克は巻物に記された罪業を読み上げる。30歳だがすらりとした長身で刃物のような鋭さを持っていた。隣には同じく30歳の青年、申七星ハオ チーシンが立っている。彼は大学時代の友人であり、幹部であった。


 1945年、5歳だった皇帝は飾りであった。日本共和国によって中華帝国は蹂躙されたのだ。食料や宝物を奪われ、人権も無視された。皇帝の両親は殺害されて幼児を皇帝の玉座に据えたのだ。

朱雀ズゥチュエ県では日本軍による工場が建てられており、中国人は毎日こき使われたのだ。だが1945年の疲労島ひろしまと詠﨑《ながさき》において原子力爆弾の事故により、何十万人の人間が焼けて消えた。

 日本軍は慌てて戦争を止めたのだ。支配していた中国をほっぽいていなくなったのである。


 おかげで指導者を亡くした中国は混とんを極めた。両親を殺された维诺姆は新しい中国を目指したのだ。今の皇帝を持ち上げて、強い中国を求めたのである。

 国民から徹底的に絞ったが、本人は一切のぜいたくをしなかった。すべて皇帝の為に注ぎ込んだのだ。結婚もしておらず、家には必要な家具しかなかった。

 皇帝も大学を入学したころには维诺姆のやり方に不満を抱いていた。だが彼は飾りであった。同級生である七星たちと共に维诺姆の不正を暴き、法の下で彼を捌くことに決めたのである。


「そなたは朕のためにその身を削ってきた。そなたの朕に対する忠誠心はこの国一番であろう。だがそなたはやりすぎた。国内はおろか国外でも敵を作りすぎた。だから朕から死を賜うことにする。ありがたく受け取るがよい」


 皇帝の死刑宣言に维诺姆は涙を流した。


「陛下が私を法の下で処刑する……。忌まわしき鬼子共によって無理やり座らせられた童子の時とは大違いだ。立派に成長成されて私は何の未練もございません。どうぜ陛下の手で私に引導を渡してくだされ」


 维诺姆は満面の笑みで涙を流し、感謝の言葉を述べた。皇帝はすぐに合図を送るとガタンと板が外れ、维诺姆はあの世に旅立った。

 国民の多くは自分たちの家族や友人を死に追いやった悪徳宰相の死を見物に来たものがほとんどだが、同時に中華帝国の為に骨を折り続けた名宰相の最後を見届けに来た者もいる。

 

 七星は维诺姆の最後を見てこう思った。


「自分もああなりたいな」


 そうぽつりとつぶやいたのだった。


 ☆


「けっけっけ!! まさかお前さんが甦っていたのは驚きだな!! やっぱり皇帝陛下が心配であの世から戻ってきたのかな!?」


 维诺姆ことモンローセンプが叫ぶ。僕は学校で中国の歴史を学んだが、维诺姆は中国で大勢の人間を殺した悪人として扱われている。

 だが中国本土では皇帝に忠義を尽くした人間として扱われていたのだ。

 僕は当時東洋人の考えが理解できなかった。


「……それもある。あんたはなんで蘇った? 自分を死刑に追い込んだ私や陛下を憎んでいるのか?」


 ゴクウが訊ねた。ヒヒの姿になってもわかるものだなと感心した。


「はぁ? なんで俺がそんなくだらないことで恨まねばならんのだ?」


 センプは心外だと言わんばかりに怒りの表情を浮かべた。


「むしろ俺はお前の働きに感心していたのだぞ。陛下と共に俺を法律で追い詰めて死刑に追い込んだ。その手腕は褒めても恨むつもりは毛頭ないわ!!」


「……ならばあんたも陛下が心配で蘇ったのか?」


 ゴクウが言った。中華帝国の人間は皇帝陛下を神のように扱うんだな。見たことのない神様を信仰するオルディネ教の信者とはえらい違いだ。


「その通りさ!! 俺の人生はすべて皇帝陛下に捧げておるのだ!! そして俺を生き返らせてくれたお前さんにも感謝しているぜ!!」


 そう言ってセンプは僕を見た。たぶん僕のことは杖技平蔵つえぎ へいぞうことミルズから聞いたのだろう。だが僕に対する恨みはなさそうだ。


「正確には僕じゃないですけどね。なぜあなたを元に作ったのかわからないな」


「どうもあのブリキのおもちゃ、ミルズの話だが、神応岩スピリットガイアの影響がもっとも強い人間を選んだそうだ。それが俺に白羽の矢が立ったわけだな」


 センプはゲラゲラと笑っている。こんなに品のない男だったのだろうか。僕はゴクウにそっと耳打ちした。


「いや、まったくの正反対だ。品性の良い人物だったぞ」


「恐らくは神応岩の影響を受けないためだな。元の维诺姆と連想させないためだろうね。今の彼は荒野の蜘蛛男に出ていた悪役タコハチそっくりだね」


 アシュラの話によれば神応岩は大勢の人間に影響を及ぼす。元ヨーロッパでは吸血鬼伝説の影響で、カーミラと言う少女が人間の村を彷徨ってはなぶりものにされているそうだ。そして何度も殺されても生き返っているという。僕が生み出した金属細胞メタルセルを使ってないのに、怪物が生まれるなんて信じられないな。しかも元ロシアでは某皇女様が甦っているそうだ。


 世界はキノコ戦争によって荒廃した。しかし科学の力が無に帰した今人間たちは妄想をこじらせてしまったようだ。

 ちなみに荒野の蜘蛛男は僕が生まれる前に公開されたアメリカの西部劇だ。

 銃の腕はからっきしだが、縄を使った罠を使って悪漢たちをこらしめる作品である。悪役のタコハチは日本で付けられた名前で、本来はバンディット・オクトパスという。複数の拳銃を使いこなす強敵だった。


「あたりだよぉ!! 俺が西部劇の姿をしてタコハチの真似をしているのは、维诺姆を連想させないためさぁ!! 今の俺は銃を撃ちたくてたまらないお前さんを演じているんだぁぁぁ!!」


「……人のせいにするとは、あんたも落ちたな」


「いいや、僕はそう思わないね」


 ゴクウさんは軽蔑した口調で言ったが、実を言うと僕は銃を撃ちたいと思っていた。世間の人間に対して銃で皆殺しにしたいと願ったことがあったのだ。

 映画の中でのオクトパスはひげもじゃの親父で自分の悪口を言った人間は片っ端から殺していた。8丁のリボルバーを巧みに操る姿に見惚れていたんだ。

 僕はママに虐待されて育ってきたが不思議にママを殺したいとは思わなかった。逆に陰口を叩く人間が大嫌いだったな。


「あんたは何がしたいんだ? モンロークラウトのように人類を滅ぼしたいのか?」


 僕が質問すると、センプの形相が変わった。まるで鬼のようだ。よほど腹が立ったのだろう。


「俺はあの野郎をぶち殺すために動いてるんだよぉ!! あの糞野郎は皇帝陛下以外の人間を皆殺しにするつもりなんだぁ!! この世界に住む人間はすべて陛下の奴隷なんだよぉ!! もちろん俺も含んでいるけどなぁ!!」


 センプは左手でパチンと指を弾いた。すると倒れていたスゥがむくりと起き上がる。額の穴は見る見るうちにふさがっていくが、目は虚ろだ。

 さらにセンプの後ろから数十人の人間が現れた。全員ゾンビのようにふらふらと動いている。悪臭がしないだけましと言えた。


「ひゃっはっは!! こいつらは俺が作った僵尸キョンシーだ!! 幽灵般的孩子スプーキーキッズと名付けて全員俺の命令通りに動くんだ!! そして皇帝陛下の為に肉が削がれ骨を削って働いてもらうんだよぉ!!」


 キョンシーは中国に伝わる死体妖怪だ。ゾンビみたいなものである。昔ビデオで見たことがあるが、映画と違って動きは鈍そうだ。


 センプに命令された人間たちはセンプを護るように彼を囲んだ。手には鍬などを手にしている。武器を持つ知性は持っているようだ。

 センプはキョンシーたちをスプーキーキッズと呼んでいる。恐らく頭脳はモンローの影響が強い。同じような名称を付けてもおかしくないだろう。


 ゴクウさんも構える。僕はアシュラに念話で連絡したが、援軍が来るのは期待しないでくれと言われた。空を飛ぶことが出来るシンドバードですらアメリカ、今はニューエデンと呼ばれる国にいるのでかなり時間がかかるそうだ。


「荒野の蜘蛛男は罠を張ってタコハチの部下と戦ってきたが、お前たちはどうかなぁ!? 俺はお前らの事は知っているが、能力は詳しく知らん!! だが俺には関係ねぇ!! 人生は一寸闇よ!! 手持ちの力でなんとかするのが男ってもんさ!!」


 センプはキョンシーたちを支持して僕たちに襲わせた。他の村人は家から出てこない。キョンシーたちの顔ぶれには、最初村の人間はいないからだ。いるのはスゥだけである。

 センプは腕を組みながら、紙巻きたばこを吸っている。余裕綽々というかタコハチのようなふるまいをしていた。


 あいつはもう一人の僕であり、维诺姆でもある。そんな彼は映画の悪漢を演じることで、神応岩の影響を交わしているのだ。

 そして目標は中華帝国皇帝、黄帕克のために動いている。人を想う力がどれほどのものか、僕は怖くなった。

 黄帕克はスパイダーマンの本名、ピーター・パーカーから取りました。黄は黄龍の黄です。


 荒野の蜘蛛男はもろにスパイダーマンで、タコハチは悪役のドクターオクトパスです。

 スパイダーマンのアニメでは、日本ではタコハチと呼ばれていました。


 センプは英語のスラングで、好きな人の言いなりという意味があります。

 スペルはSIMPです。


 ヴェノムもスパイダーマンの悪役です。実際は気まぐれで付けた名前でしたが、スパイダーマン関係がいいと思いました。

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