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第10話 兄弟

龍英雄ロン インシオンが死んで四年の月日が経った。

 子供たちは無事に長い冬を乗り越えることができた。塩漬けの人肉を食べたおかげでもある。これで彼らは人肉を喰らう獣人となった。

 それと彼ら自身、身体能力が高く、普通の人間では生き延びることができなかっただろう。すぐに病気になるか、精神崩壊を起こし、狂人になるかのどちらかだ。


 家から出ると周りは雪の山になっていた。森の木よりも高く積もっており、まるで自分たちは籠の中に閉じ込められた感じであった。

 空は真っ青で太陽の光が差し込んでいる。ひさしぶりの日光浴は子供たちの心を溶かしていった。

 しかし真っ白な雪の風景はキラキラと光が反射しており、目が眩むほどだ。しかし心地良い痛みである。


「ああ、まぶしい。僕たちは生き延びることができたようだ」


 パンダの亜人で英雄の弟である虎鳳は目を細めながら周りを見回した。

 今は十七歳になっており、小柄の身体はすっかりとたくましくなった。

 兄が死んだ後、泣き虫で臆病者の彼は豹変した。心身ともに成長したのだ。


「本当にね。ほうら坊や。あれがお日様の光ですよ」


 ユキヒョウの亜人である雪花シュエファは毛皮を着ていた。そして三歳ほどの子供の手を引いている。

 ノヤギの亜人の子供だ。なんと彼女は英雄の子を宿していたのだ。

 一晩の契りで忘れ形見を得るとは、英雄は大変運がよかったと言える。


 子供の育て方は大頭ダトウが教えてくれた。彼はみんなが食べない人間の脳を食べたのだ。

 そのおかげで龍一族の知識を得ることができた。子供の育て方も英雄の母親などの知識から取ったのである。

 子供たちは英雄の子を全力で守った。下手すれば母子ともども死んでいたから、奇跡だろう。


超人チャオレン。あなたは偉大な英雄の息子です。あなたは父親を超えなくてはなりません。でも私が手助けするから安心なさい」


「はい母上ムチン


「良い返事です。まずは村の再建ですね。忙しくなりますよ」


 雪花は息子に言い聞かせた。白いイエネコの亜人で雪花の妹でもある月花ユエファも頷いた。


「再建のことなら任せてくれ。俺の頭には家の建て方や、井戸の掘り方、鍛冶などの知識がある。他にも知りたいことがあるなら何でも教えるよ」


 そう言ったのは巨大な人間の頭であった。耳のあたりに太い腕が、顎の下には両足が生えている。大頭だとうといい、人間の手で生み出された異形の怪物だ。出会った当初と比べると歪んだ顔は整った顔つきになっている。

 

「でもお前の場合は知識があっても、経験が皆無だろ」


 文句を言ったのはアカギツネの亜人である小夫シアオフだ。彼はずるい少年だが知恵は回る。


「けど間違えることも大事だよ。でないと何が正しいかわからないじゃないか」


 反論したのは金華豚の亜人である大雄ダオシンだ。元々気の弱い少年で、読書が趣味の少年であった。


「なんだよブタ。本当のことを言って何が悪いんだ。俺は正直者なんだよ」


「いくら正直者でも、言っていいことと悪いことがあるよ。大頭が僕らの家族の脳みそを食べたおかげで、僕たちは寂しい思いをせずに済んだじゃないか」


「……まあ、そうだけどな」


 大頭は英雄の頭を食べた。正確には脳内にある砂粒ほどの大きさである神応石スピリットストーンを食べたのだ。

 そのおかげで大頭はその人の持つ知識を吸収することができた。他にも死んだ龍一族の大人たちの神応石を食べることで、その人の持つ記憶を読み取ることができたのだ。

 子供たちは家族しか知らない情報を得ることで、ストレス解消できたのである。


「大雄の言う通りだ。それに大頭だけに任せるつもりはない。俺たち全員でぶつからねばならないんだ。村を立て直し、荒廃した世界より前に戻さないといけない。俺たちにはその力があるんだ。責任重大だぞ」


 キンシコウの亜人である胖虎パンフが言った。彼は英雄の幼馴染であり、好敵手でもあった。最初は英雄に反発していたが、互いに認め合い、友情を育んだのである。

 ちなみに小夫は胖虎の腰巾着で、いつもへこへこしていた。大雄はあまり友達がおらずひとりぼっちでいるときが多かった。

 だがこの四年間で彼らの性質は変わっている。小夫は軽口を叩くが積極的に胖虎の手伝いをするようになった。大雄も同じく率先して働くようになり、人見知りも改善されている。


「まず僕たちのやる事は村の再建だ。しかし世界にはキノコ戦争で起きた猛毒の胞子がばらまかれている。それを除去しなくてはならないんだ」


 虎鳳が核戦争ではなく、キノコ戦争と称したのは過去への決別だ。核爆発で発生したキノコ雲を見立てて、キノコ戦争と称したのである。


「それには俺の力を使う必要がある。まずはこれだ」


 大頭は口からペッペと何かを吐き出した。それは大豆ほどの大きさでキラキラした石だった。二粒ある。

 それを近くの木に埋め込む。すると木の枝からむくむくと実が出てきた。それはりんごほどの大きさになると、ぽとりと落ちる。そこから巨大なカボチャのように成長していった。

 最後には人間の顔が出てきて、手足が生えた。大頭と同じビッグヘッドが生まれたのである。


「この四年間で得た知識だ。俺には新しいビッグヘッドを生み出す能力が備わっているようだな。こいつを利用し、キノコの胞子を除去していく。こいつらはキノコの毒が濃い場所を探し出し、水を求めて探すことができるのだ。さらに食べた鉱石は涙鉱石ティアミネラルとなり、混じりっ気のない鉱石になるんだ。そしてこいつらはオスとメスに分かれている。オスは杉など家や家具に使える木になり、メスは栗やドングリなど食べられる実を付ける木になる。半年経つと木に変化し、十個ほどの実を付けて増えるんだ。こいつを世界各国にばらまく。これで人間はキノコの毒に怯えることはなくなるんだ」


 子供たちは歓喜の声を上げた。雪が解ければ家を建て、畑を耕す。そして子供を作り、子孫を増やしていく。

 荒廃した世界で自分たちが一から立て直していくのだ。おそらく自分たちと同じく生き残った人間たちもいるだろう。

 もっともすんなり協力できるとは思えない。選民意識が高く、他者を支配しないと気が済まないと思うかもしれない。


「さあ、新しい人生の始まりだ! 僕らは兄弟シオンディ、僕たちの戦いはこれからだ!!」


 虎鳳の声に子供たちは反応する。長く暗い冬を乗り越えたのだ。彼らはまぶしくも暖かい世界に希望を抱いていた。


 ☆


 中華帝国の西部、白虎パイフー県は大きな森が広がっていた。ほとんど未開で文明と関わらずに暮らす部族が多かったという。ほぼ石器時代の様な生活を送っていたらしい。

 近年では中国皇帝の命令で立ち退きを命じられた。原始人の様な生活を送ることが許せなかったのだ。科学が発達し、世界市場が広がっていたため、自国の文明の低さを誤魔化すためだ。

 さらに珍しい動植物があり、学者たちにはたまらない研究環境でもあった。近く観光の目玉にされる予定だったが、それはもうありえない。


 そこに一軒の別荘が建てられた。アメリカの資本家が贅をこらして作られたものだが、実際の中身は核シェルターが設置されていたのだ。

 それも数百人が五十年近く閉じこもっても平気なくらいの広さと食料をため込んでいた。

 よく中国で建設ができたと思うが、建築業者は金さえもらえればいいわけで、役人たちも税金が多く支払われており、貧乏な自国民の働き場として歓迎されていたのだ。


 キノコ戦争が起きる数日前には世界各国から百八名の美女が別荘に入っていった。

 その後、キノコ戦争が起きてしまい、別荘から出てくる人間はいない。

 中にいる人間はこの事実を知っているのだろうか。


 さて別荘の持ち主は十八歳の少年であった。アメリカでは天才少年ともてはやされており、本人は数々の特許で巨万の富を得ていた。

 ただ彼の研究は本国では神に逆らう禁忌と忌み嫌われていたという。

 日本のビッグヘッドと似たようなもので、世間には公表できない代物だという話だ。


 その男の名前はチャールズ・ヒュー・モンローであった。

 ロシア系の白人男性である。


 その別荘の近くに一つの影が見えた。それは人ではなかった。

 ブリキで作られたロボットだ。細長い穴に丸い光が目のように動いている。

 寸胴で細長い腕を持っていた。そいつは何か筒型のガラス瓶を抱えていた。


 中身は液体が満たされており、男の生首が入っていた。

 それは毬林満村まりばあし みつむらの首であった。


 第1部:死の谷の影で。完。

今回で第1部は終わりです。次回は第2部です。

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