第十四話 モンローセンプの正体は维诺姆
「これはひどいところだな」
目の前の光景を見た時、僕はこうつぶやいた。僕は人間の住む村に案内された。そこは以前本で見た縄文時代のような竪穴式住宅が並んでいたのだ。
村では火を囲んで土器で煮物を作っていたり、製鉄をしていたりしていた。
村人はどこか目が虚ろであった。女はほとんど出ていない。男ばかりであった。子供の姿も見えない。どこかで子供のうめき声が聞こえてくる。もしかしたら軟禁されているのかもしれない。
出っ歯の男、スゥという名前だが、こいつが声を上げた。
「みんな!! アオマンは死んだぞ!! この人が殺したんだ!! あいつは子供たちが大勢で矢を数十本も突き刺して死んだぞ!! その死体は斧で粉々にして怪物大頭の餌にしてやった!!」
スゥの言葉に村人は歓喜で震えていた。中には涙を流して喜んでいる者もいた。家に入って子供たちを解放する。女も子供もアオマンに苦しめられてきたのだ。人一人の死を喜ぶとはあの男はよほどこの村の暴君であったのだろう。
「初めまして。僕の名前はヒュー・キッド。よろしくね」
「ひゅう・きっど……。米国の人だったのですか。まあ命の恩人には変わりありません」
「ところでアオマンはこの村でどんな役割を持っていたのですか?」
「そりゃあ、村を襲う獣たちを狩ってくれたんだよ。俺たちでは数人でも敵わないアライグマも、あいつなら斧を振り下ろせば頭を砕いていたんだ」
「すると僕が殺したことでこの村は獣たちの餌食になるのではないですか?」
僕が改めて説明するとスゥの顔は真っ青になった。アオマンが寝込みを襲われなかったのは村を守っていたからだ。一時の感情で村の守護者が消えてしまった。スゥ以外の人間はアオマンの死に喜んでおり、げらげら笑っていた。
「僕はこの村を放置するつもりはないよ。彼を死なせた責任は取らなくてはならないからね。僕は君たちに自分たちを護る術を教えてあげる。それが僕にとってのオムスビマンなんだ」
僕はそう説明した。まず彼らに連弩の作り方を教えてやる。連弩は中国製のクロスボウ、弩の連射性を高めたものだ。
さらにバリスタの作り方も教える。連射性の高いポリボロスだ。素人でも簡単に扱えるのが重要である。
「え~、めんどくさいなぁ。あんたが作ってくれよ」
スゥは文句を言った。僕は太い木の幹を叩く。僕は軽く叩くと、幹はめきめきと折れた。スゥたちは驚愕した。
「僕は暴力が嫌いだ。だがアオマンみたいに見返りを要求するつもりはないよ。でもなんでも人任せは感心しないな」
僕は軽く脅してやった。スゥたちはアオマンの死にざまを思い出すと素直に僕の指示に従った。
今は面倒かもしれないが、慣れれば気にならなくなる。中国人は自分の為になると分かればやる気を出すものだと知っているのだ。
僕は水車や風車を作らせる。水車は水流を利用して羽根車を回転させ、機械的動力を得る装置だ。精米・製粉に利用できる。
それに水車紡績というものがあり、水車を原動力とする紡績法がある。明治初期に臥雲辰致が発明したものだ。がら紡ともいう。
こいつを改良すれば冷蔵庫を作れるのだ。食べ物の保存が出来ればかなり強い。電気がなくてもなんとかなるものである。
僕はスゥに命じて森の獣を見に行った。僕はキノコの毒を探知することができる。森の中は安全だ。ただ5メートル間隔で生えている。杉などがきれいに並んでいるのだ。
「これは怪物大頭から生まれた森なのです。昔はここから西にある森に棲んでいましたが、森の木をすべて焼き尽くしてしまい、こちらに移りました。そこで怪物大頭が木に変化したのを目撃したのですよ」
ちなみに森の西側には栗やドングリの木がびっしりと並んでいるそうだ。おかげで木の実を食べて飢えをしのいでいた。そして森の恵みを求めて大型の獣がやってきたという。
「ところで君たちはアライグマを恐れているのかい?」
アライグマは食肉目アライグマ科の哺乳類だ。タヌキに似るが、尾に黒の輪模様がある。木登りがうまく、巣は木の洞につくるという。
名称は、水辺で食物を探すしぐさが、手を洗う姿に似ることからつけられたそうだ。
昔は南北アメリカの森林地帯に分布していたが、ペットブームで多くの人に飼われたそうだ。だが育てるのが面倒になり捨ててしまう飼い主が後を絶たなかったという。それが繁殖して在来種を脅かしたそうだ。
「アライグマはその名の通り、大きな熊なのでございます。下手に近づけば頭を掴まれがりがりと頭の皮を剥がされてしまうのですよ」
スゥは証拠としてアライグマの骨を見せた。それはヒグマのような大きさであった。
どうやらアライグマは僕が知っているようなサイズではないらしい。恐らくキノコの毒のせいで成長ホルモンを狂わされたのだろう。
スゥの話では森の中には一つ目や下半身のないアライグマの赤ちゃんの死骸があったそうだ。恐らくは奇形児として生まれたのだろう。そしてまともな身体のものだけが生き残って今の形になったのかもしれない。
他にもヌートリアやノヤギ、アカギツネやアカジカなども巨大化しているそうだ。ホシムクドリやアメリカザリガニなども巨大化しており、村人たちを襲っているという。
村人でまともに戦えたのはアオマンだけだったそうだ。僕はしばらく武器を開発し、彼等が真っ当に戦えるように用意しないといけない。
アメリカの民主主義を否定した僕が、同じことをするから皮肉なものだ。
☆
あれから4年の歳月が過ぎた。村の名前は最初村と名付けた。僕が最初に作った村という意味だ。
村は竪穴式住宅がほとんどだが、高床式倉庫も作られている。衣服は貫頭衣というものを着ていた。日本の弥生時代を意識している。
他にも森を切り開き、畑を耕している。他にも水田を作っていた。
男たちは木の鎧を着て、森の中に罠を仕掛けている。鳴子や弩を利用した罠を作り、獣の対策はできていた。
「見事なものだな」
空から声がした。ふと天を見上げるとそこには一頭のヒヒが飛んできた。しっぽを高速回転させて、ヘリコプターのように飛んできたのだ。
彼はゴクウ。僕と同じスプーキー・キッズの一人である。
「ゴクウさん。おひさしぶりです」
「うむ、この身体になると月日が経つのが遅くなるな」
ゴクウさんはぼやいた。実は人造人間になってから精神があまり成長しなくなったのだ。昔と比べて気が長くなったと思う。脳みそに金属細胞を移植したので脳細胞が壊れにくくなったため、あまり新発明などができなくなってしまったのだ。
例外はアシュラだ。彼は僕の別荘に住んでいて研究室で研究を続けている。彼の場合脳が3つあり、別々の研究を同時にできるのだ。
「ここが噂の最初村か。朱雀県は環境汚染がひどかったからな。それもこれも维诺姆のせいだ。あいつのせいで中華帝国はめちゃくちゃにされてしまったのだ」
ゴクウさんは苦々しく答えた。维诺姆は中華帝国では悪名高い人物だ。宰相でありながら皇帝の名を借りた文化大破壊のせいで重要な美術品や歴史的建築物は消えてしまった。
「私は朱雀県出身だった。環境汚染をなんとかしたくて貧乏なのに就学金制度で大学に出たのだ。そこで皇帝陛下と出会い、将来を語ったものさ」
どうやらゴクウさんと皇帝陛下は大学時代は同級生だったようだ。物心がついても宰相の悪行を止めることが出来なかった。
ゴクウさんを幹部にして宰相を追い詰める証拠を集め、1970年には维诺姆を処刑に追い込んだのである。
その後、ゴクウさんは環境大臣に就任した。ズルタンの会社と手を結び、ビッグヘッドを作り上げたのだ。すべては汚染された中華帝国を浄化するためであった。
「実はこの村は以前维诺姆を崇拝していたそうですよ。新しい中国を作った建国の父と褒めちぎってたとスゥさんは言っていましたね」
それを聞くとゴクウさんは顔をしかめた。あまりいい人物ではないのだろう。実を言うと维诺姆は皇帝より人気が高かった。古い中国を壊した革新的な人物として心酔している人間はいまだにいるという。
「4年前に僕が倒したアオマンという男ですが、そいつは最初まともな男でした。ところが森の中で突如気が触れたのです。今の世界は维诺姆のおかげだ、腐った世界にキノコの胞子をばら撒き、古い物を焼き尽くし、山や海を毒で犯したのだと叫ぶようになったそうです」
「―――!? それは本当なのか!!」
ゴクウさんの顔が険しくなった。一体何なのだろう。
「先ほどの言葉は维诺姆が生前マスコミの前で語った言葉だ。我が国が所持する核ミサイルで古い物を焼き尽くし、他国の山と海を毒で犯すべきだと主張していたのだよ。もちろん当時のマスコミは陛下より宰相の味方だったがね」
ゴクウさんはため息をついた。よほど当時の宰相の行動は目に余るものだったのだろう。
「ぎゃー!!」
村の中で悲鳴が聞こえた。何事かと僕たちは声の主へ駆け寄った。
村の広場には一人の男が立っていた。まるで西部劇に出てくるガンマンみたいだ。ただし豚のように太っている。
男は懐から小魚を取り出してはぼりぼり食べていた。
男の足元には村人が倒れている。スゥだ。額を射抜かれていた。とてもではないが助かる見込みはない。狡い男だったが憎めない人間だった。僕は全身の血が逆立つような感覚になった。
だが手には何も持ってない。右手には人差し指と中指に湯気が出ていた。
「ひゃっはっは、この村は俺様のものだ!!」
「お前は何者だ!!」
「んん? お前はモンロー15じゃないか。もう起きたのかね」
こいつは僕を知っている? いったい何者だろう。いや、僕はこいつを知っている。
「……僕と同じモンローなのか?」
すると男はにやりと笑った。
「その通りよ。俺様はモンローセンプ。生前は维诺姆という名前だったがね」
その名前を聞いてゴクウさんの顔が怒りで赤く染まった。
维诺姆はスパイダーマンのヴェノムを中国語で翻訳したものです。




