第十一話 ディーヴァは意外な人と再会した
「これが日本共和国だなんて……」
褐色肌で翡翠のような瞳を持つ、すらりとした美女が船の上でつぶやいた。船はガレオン船ほどの大きさだが生きている船だ。大頭船といい、ビッグヘッドの変異種である。
船には猫の亜人たちがちょろちょろと働いていた。
「そうだ。だが俺は50年前の日本など知らない。しかし話に聞いたのとは全然違うな」
パンダの亜人が近づいてしゃべった。頭にオレンジ色のバンダナを巻き、青色のチョッキを着ている。右側に剣を佩いており、茶色のズボンを履いていた。
愛くるしいパンダに見えるが、身体中には潮の臭いが濃く染みついている。顔つきも鋭く、油断ならない目つきをしていた。
彼の名前は龍虎鳳。鳳凰大国出身の海賊だ。もっとも鳳凰大国は自国民が名乗ったわけではない。他国の人間が呼んでいるだけだ。
元は中華帝国と呼ばれていたが、50年前のキノコ戦争によって一度は滅んだ。だが鳳凰のように蘇ったのでそう呼ばれるようになったのだ。
女性の方はディーヴァだ。彼女は虎鳳の故郷である龍京の危機を救ってくれた人造人間だ。彼女はハワイに向かう途中であるが、日本に立ち寄ったのである。
ちょうど龍虎鳳が立ち寄ったので、乗せてもらったのだ。
仲間同士の念話で聞いたが、18歳の龍虎鳳ことアラディンの話を聞いた。ランプの精に似ているとのことだが、目の前のパンダの亜人と重ねてみる。
ディーヴァは50年ぶりの日本を見て驚いた。彼女は日本海側にいるが、巨大な河が出来ていた。日本運河といい、新潟から東京まで繋がっているという。キノコ戦争の影響で生まれたそうだ。
さらに海岸にはゴミがまったく落ちていない。見渡す限り森が広がっている。ビッグヘッドのおかげだ。汚染された土やゴミを喰らいつくし、寿命を迎えたビッグヘッドは杉や栗の木に生まれ変わる。こうして悪臭漂う目障りなゴミは消えていったのだ。
「50年前は観光地以外はゴミばっかりだったのに、偉い変わりようね」
「俺も日本共和国は自然の国と言っても、不法投棄を愛していると聞いていた。しか王大頭、今は邪悪大頭と名を変えたか。世界各国の原子力発電所や核廃棄施設を中心に同胞をばらまいたのだ。おかげで世界は自然に恵まれたのだよ。とはいえ俺は生まれてこの方文明とは程遠い村に住んでいたがね」
がっはっはと虎鳳は笑い飛ばす。自分の今の生活が気に入っているのだろう。彼は閉鎖的な村を襲撃しては奴隷にしている。それをアメリカ、今はニューエデン合衆国に売り飛ばしているそうだ。そこでは亜人たちが主流で、しゃべるビッグヘッドが政治を行っているという。
「私は漢東は砕珠県出身よ。首都の闘京は年に数回遊びに行く程度だったわ」
「そうなのかい。今の闘京は小さな島になっていてね。大君大頭が支配しているのさ。人馬に鳥人間、蜘蛛女や蛇女など異形の国に成り下がっているのだよ」
虎鳳が言うと、途中で木造船とすれ違った。ディーヴァはそれを見て驚いた。
船に乗っているのは蜥蜴人間であった。鉄板の兜に胸当て、手には槍を握られており、爬虫類の眼でディーヴァを見ている。青い鱗に覆われており、尻尾を振っていた。
虎鳳はそれを見ると右手を上げて振った。すると蜥蜴人間も釣られて右手を振る。虎鳳とは仲が良いようだ。
さらに船の先端には何本も縄が引っ張られていた。引っ張っているのは人魚である。
ヒコ王国にも人魚はいるが、彼等は人魚症と言って生まれつき両足がくっついている。しかし目の前にいる人魚は男で下半身はまごう事なき魚であった。
もう一隻木造船が来たが、こちらは河童であった。頭に皿があり、鳥のようなくちばしに亀の甲羅を背負っている。水膨れしたような肌に魚のような目をしている。下半身は腰蓑一つだけだ。こちらも大頭船をちらりとみただけで自分たちの仕事に戻っている。
「漢東では西洋の怪物、漢西では日本古来の妖怪の亜人がいるのだ。昔兄がお土産にくれた日本の妖怪とそっくりで感動したね」
虎鳳が説明してくれた。ディーヴァは感心していた。対岸には上半身は人間だが下半身が馬のケンタウロスたちが荷車を引っ張っているのが見えた。さらに両腕が翼を持つハーピィたちも見えた。彼等は脚に荷物を掴んでいる。
「他国の亜人とは違うんですね」
「ああ、他の国は動物や植物の亜人がほとんどだ。元インドのガルーダ神国では鳥の亜人が多いな。国によって違うらしい」
「蜥蜴人間や河童はわかりますが、ケンタウロスやアラクネなどはどういうわけでしょうか?」
「さぁな。日本人は神を相手に性交をしたがる性格だ。偉大なる皇帝陛下が支配する中華帝国の一員である俺には理解できんよ」
虎鳳は可可大笑いした。侮蔑の部分が目立つがディーヴァは気にしないことにした。
さて丸一日経つと、船は闘京島にたどり着いた。なんでも死ん宿区を中心に残ったらしい。
森に囲まれており、海岸には木造建ての村が見えた。人魚やスキュラなどの水に住む亜人が多い。漁師として生計を立てているのか、魚や海草を干したり、網を直したりしていた。
だが木造船にはリザードマンが武装して周回している。人魚やハーピィも協力しているようだ。原始的ではあるが警戒は怠っていないようである。
大頭船は一度巨大な船に止められた。相手はミノタウロスで金と積み荷を要求される。乳国税のようだ。代わりに涙鉱石を渡される。ビッグヘッドが目からこぼすものだ。食べた土や石などを消化して一つに固めた物である。
虎鳳はミノタウロスと話をすると、こくこくと肯いた。
そして数時間後に船はとある港に着いた。こちらは石造りの港であった。
港には動物や植物の亜人の他に、鳥の亜人や妖精などがいた。人間も混じっている。
他にはガスタンクのように巨大なビッグヘッドが海岸に浸かっていた。禿げ頭に大きな口を開いて海水を飲み込む。さらに大蛇のような巨大な舌でぺろぺろと舐めていく姿は不気味であった。
フレイヤヘッドといい、ビッグヘッドの下には数百本の根が闘京島に広がっており、ガスを供給しているそうだ。
「まるでコスプレパーティですね。こんなの見たことがない」
「そうだろうな。あいつらは世界各国から来たのさ。妖精は元はイギリスと呼ばれた国から来たのさ。龍京だけでなく復旧した国は多い。真っ当に貿易をしているのもいるが大抵は海賊行為が目立つな」
虎鳳が凄味のある声を出した。恐らくは他の海賊たちを返り討ちにしたのだろう。
血の臭いも染み込んでいる。口からは死臭が溢れている気がした。
「あんたが望むハワイはもう地獄だよ。海流のせいで世界各国のゴミが集まってきている。海は重油で真っ黒だ。植物はみんな全滅しているし、生き物の住む場所じゃない。大頭船は平然と進めることはできるが、俺たちが毒の空気を吸って死んでしまうから、近寄らないがね」
「ふふふ、私は普通の人間に見えますけど、人造人間なんですよ。普通の人間なら死ぬ場所でも私なら耐えられます。まあ平気ではないですが」
そもそもディーヴァはなぜハワイに行こうとするのか。それは自分を標的にするためである。自分はビッグヘッドを生み出すことが出来る。そして奇麗になったハワイを狙って海賊が来ることは予測が出来た。そいつらを片っ端から返り討ちにすれば、どんどん名が売れる。
そうなれば他のモンロー達が自分を殺しに来るかもしれないのだ。ディーヴァはそれを狙っているのである。
「まあ、俺には関係ないがね。お前さんがどうなろうが、送ってしまえばそれっきりだ。とはいえ数年後に尋ねて、ハワイが奇麗になったら取引はするよ」
虎鳳はディーヴァに対して信頼していない。自分の兄の遺児、超人が死んだのは彼女を改造したモンロースニークだ。彼女の力添えがあったから超人の息子、金剛は勝利することが出来たが、その行為も自分たちを罠に嵌めるためだと思っていた。
だからと言ってすぐ殺す気はない。相手が悪意をぶつけるならともかく、利用するならそれでもいいと思っている。気に喰わないからといって殺しにかかるのは乱暴だ。長く海賊行為を続けると、どんな相手と手を組むべきかはわかってくる。
闘京島で休んでからハワイに旅立つ。ところがケンタウロスがやってきた。なんでも大君大頭がディーヴァを呼んでいるそうだ。
一体何の用だろうか。虎鳳も頭をひねっている。普通は簡単に出会える相手ではないらしい。
ディーヴァは翌日ケンタウロスがけん引する馬車に乗せられた。虎鳳は呼ばれてないので留守だ。サスペンションが仕込まれた馬車で揺れはほとんど感じない。
数時間経つと、小高い丘に木造の建物が見えた。
いやそれは巨大なビッグヘッドであった。肌は樹のようにごつごつで太陽のようにぎょろりとした両目がディーヴァを見ていた。
巨大な口は門のようである。小さな両手と両足がもぞもぞと動いていた。
さて巨大な口から巨大な花が歩いてきた。
菫色の花弁に緑色の肌を持っている。ひょこひょことディーヴァに近づいてきた。
「初めまして。私は花主人。この大頭城の主です」
「こちらこそ初めまして。私はディーヴァ。今回は私を招いていただき光栄です」
「本当は初めてではないのですけどね」
「?」
「私の本当の名前は、金城真咲と申します。ひさしぶりね茉莉花」
ディーヴァは目を見開き驚いた。金城真咲は小学校の同級生で一番の友人だった。そしてバオバブこと、金城外陰が年を取ってから作った子供でもある。
「……あなたも改造されたの?」
「違うわ。私はビッグヘッドに生まれ変わったの。この大頭城は私自身なのよ」
親友の言葉にディーヴァは目を丸くした。




