第十話 能力名を明かされました
「さてお前たちに新しい名前を授けよう!!」
銀色の猫耳のついたブリキの物体であるミルズはテンションを上げながら叫んだ。目の前には大猿の申七星、金箔の王子の銅像である18歳の龍超人。白銀の身体を持つ龍雪花《ロン シュエファ、そしてふとっちょの中東人に見える18歳の龍虎鳳の4名だ。
「なぜお前さんが我らの名前を決めるのかね?」
異議を唱えたのは七星だ。中華帝国の環境大臣を務めた人物なので、勝手に名前を決めてもらいたくないのかもしれない。
「たかが名前を侮るなかれ、名前は力を持っているのだよ。言霊と呼ばれているのだ。中華帝国の皇帝も庶民が軽々しく名前を出さないのと同じさ」
中華帝国の皇帝にも名前はある。しかし高貴な人間の名前は軽々しく口にしてはならない決まりがある。庶民が口にすれば皇帝が汚れるからだ。七星は皇帝の本名は知っているが口にしたことはない。あくまで皇帝陛下としか言わないのだ。
「なるほど。そういうことなら納得だ」
七星は理解した。他の3人も文句は言わない。
「まずは申七星。あなたはゴクウだ!!」
「西遊記の孫悟空か。大猿の私に相応しい名前だな」
七星こと、ゴクウは自分の名前に満足した。
「次に龍超人。君はハッピープリンスと名乗るがいい!!」
「なんですかそれは?」
「ハッピープリンスとは幸せの王子というイギリスの童話から取ったものだ。全身金ぴかでサファイアの眼を持っている。君に相応しい名前だろう?」
ミルズが説明するが超人は不満そうだ。あくまで役職ポイ名前だからだ。
「龍雪花。あなたの名前はゲルダだ!!」
「ゲルダとはどんな童話なのですか?」
「アンデルセン童話の雪の女王の登場人物の名前だよ。ゲルダは普通の少女だが雪の女王の後継者にされかけたのだよ」
雪花はなるほどと思った。
「最後は龍虎鳳。君の新しい名前はアラディンだ。アラディンと魔法のランプという中東に伝わる童話の主人公の名前だよ。もっとも君の身体はランプの精に似せているけどね」
「というかなんで中華帝国の俺に中東の童話と絡めるんだよ」
虎鳳は不満を漏らす。そもそもゴクウを除いて外国の童話関係の名前を付けられた。
「そもそも俺もズルタンという名前を付けられているけどね」
「私もウンディーネという日本人とは無縁の名前です。たぶんあえて国籍をずらしているのですね」
人面犬のズルタンと人魚のウンディーネが答えた。多分二人の言う通りだろう。
「で僕たちは何をすればいいのでしょうか?」
僕は疑問を口にした。他のモンローを殺しに行けばいいのだろうか。
「いや、お前たちは世界中に広まり、貧しい人々を救ってもらいたいのだ」
ミルズは意外なことを言った。
「そもそもいまだにモンローに対する恨みが晴れないのは、彼等が貧乏な生活を送っているからだ。腹が空いてひもじいからだ。人々の腹を満たすことで少しでも不満を解消させることが最優先するべきだと思っている」
ミルズの言うとおりだ。確かに腹を空くのは腹立たしい。僕だってママに虐待されたときは痛みより腹が空くことがつらかった。
「現在、世界は少しずつ再生している。50年前に自我を持った王大頭が自らビッグヘッドを生み出し、世界各国に広めたのだ。そして原子力発電所や核廃棄施設を中心に浄化している。核の冬で出来た雪解け水で汚染された被爆湖も浄化されていっているのだ。だが今はろくな食べ物がない。木に変化したビッグヘッドから出来た木の実に、ビッグヘッドから排出された涙白肉や涙赤肉くらいしか食べる物がないのだよ」
ミルズが説明した。ヒコ王国、昔はポルトガルと呼ばれていた国だが、そこでは木の実と涙肉を使った涙のスープが主食らしい。中国でも泪白湯という名前の料理があるそうだ。
そして僕たちをある部屋に案内する。
そこはかなり広い部屋だった。動物園のようである。15歳の僕には知る由もないが、18歳の僕は何を考えているのかわからない。
「こいつは18歳のモンローが作った動物園です。珍しい動物を集めてノアの箱舟を気取っていたのですよ。ですが大半は育て方を知らないから死なせてしまったのです」
ミルズが案内する。檻の中にはアライグマやヌートリア、アカシカやアカギツネ、インドクジャクやイノブタ、ノヤギなどが入っていた。
「こいつらは生命力の高い生き物だ。国によっては特定外来種と呼ばれているものです。他にも数万種類の昆虫や植物も保存してある。まずは生命力の強い生物を配布し、緑を再生することが優先だ」
「ふむ。だがそれだと各国の貴重な動植物が脅威にさらされるぞ。環境大臣としては賛成できないな」
「そうだぞ。確かに世界は汚染されたかもしれんが、生き残った植物に止めを刺すことは許さんぞ」
ゴクウとバオバブが反対した。そりゃあそうだろう。特定外来生物はその地域にある貴重な動植物を絶滅させる危険性がある。20世紀は世界中で特定外来生物に頭を悩ませていたのだ。環境大臣はもちろんだが、植物学者であるバオバブは納得できないだろう。
「世界はほとんどキノコ戦争の毒で汚染されていた。もう貴重な動植物はここにしか残っていない。むしろまともな動植物はここにしか残っていないのだよ」
ミルズの言動は弱弱しい。ビッグヘッドによる放射能除去は進んでいるが、問題がある。それは自然に必要な菌類も殺してしまうからだ。
植物は土に栄養がなければ生きられない。50年の月日で落葉土は増えているが、それでも足りない。
「一応、世界各国にある貴重な植物は保存してある。安心してくれ」
「それはいいが、俺としてはただ保存するよりも元ある大地に戻したいのだ。植物はその地域でないと生きていられないのだぞ」
「だからこそその土台を築くのだよ。世界を緑豊かにしなければどうにもならないからな」
バオバブを説得するミルズ。僕らの役目は世界各国にアライグマたち数万種類の動植物を放つことだ。
「それとできるならヤギやイノブタ、インドクジャクを家畜、家禽として各村に渡したいな。今は馬や牛、豚や鶏はほぼ少数になってしまっている。そいつらはここで育てているが、まとまった数になるには数十年の月日をかけねばならないのだ」
「それを我々にやれと? こんな異質の我らの言うことを聞く人間がいるとは思えないがね」
ゴクウが皮肉を言った。ごもっともである。僕はシャムネコの頭を持つ人間だし、人面犬に人魚、巨大なカラスに上半身が異常に肥大化した人間植物、巨大なネズミに3面6本のチンパンジーと来たもんだ。
普通の人間なら僕らを見て攻撃してもおかしくないだろう。
ミルズが龍京の危機を救うために、ズルタンとウンディーネの娘であるディーヴァを派遣するわけだ。彼女は普通の人間の姿をしていたのだから。
「ふふん。ただの異形なら人間たちに石を投げつけられるかもしれない。だが君たちは人造人間、メタニカルアニマルだ。私が君たちに何の力も与えないと思っているのかね?」
確かにその通りだ。恐らく人ならざる力を見せつけることで人間たちの出鼻をくじくのが目的なのだろう。
ミルズは説明した。
ヒュー・キッド:能力名コーマ・ホワイト。体内の磁力を操作し空を飛び、相手を宙に浮かせることが出来る。
ズルタン:能力名イレスポンシブル・ヘイト・アンヘル。怒りで炎を操る。
ウンディーネ:能力名ロック・イズ・デッド。数十年ごとに口から新しい分身を吐き出す。
ディーヴァ:能力名ザ・ファイトソング。新しいビッグヘッドを生み出し、歌を歌って支配する。
シンドバード:能力名トゥーニキット。体内にいる子供と感覚が繋がっている。
ガリバー:能力名モブシーン。7つの人格の思考を同調することが出来る。
バオバブ:能力名ザ・ドープショー。あらゆる植物から薬を抽出することができる。
アシュラ:能力名スィート・ドリームス。過去、現代、未来の知識を詮索することができる。
ゴクウ:能力名ティンテッド・ラブ。しっぽを自在に操ることが出来る。
ハッピープリンス:能力名ディス・イズ・ザ・ニュー・シット。首を飛ばし、目からレーザーを発射することができる。
ゲルダ:能力名パーソナル・ジーザス。両手首から冷気を吹き出すことが出来る。
アラディン:能力名ザ・ビューテフル・ピープル。外部寄生虫を操ることが出来る。
一同は何とも言えない気分になった。一体ミルズはどういう意図でこんな能力名を付けたのかわからない。個人の神だの、ロックは死んだとか、麻薬ショーだの反社会的の名前ばかりだ。
「ああ、これらは反オルディネ教を歌ったロックバンドの曲名から取ったのだよ。チャールズ・ヒュー・モンローはオルディネ教の信者から嫌われていたのだ。先ほどの言霊と同じさ、あえて神に反する名前を付けることで力をつけるのさ」
そういうものか。ミルズはなかなか策士だな。15歳の僕には思いもつかない発想だ。
「それはそうと龍京では龍超人とモンロースニークが死んだそうだ。それと王大頭も殺されたそうだ」
ミルズが言った。ハッピープリンスとゲルダは顔をしかめる。自分が死んだと聞かされて複雑な気分なのだろう。
「ただ王大頭は新しく生まれ変わったという。スニークを食い殺したのはそのビッグヘッド、ディーヴァが名付けたエビルヘッドだそうだ」
エビルヘッド? なんで邪悪と名付けたのだろうか。
「ゲン担ぎだよ。EVILはスペルを逆さにするとLIVE、生き延びるとなる。エビルヘッドは殺されても生き返るという意味で付けたらしい」
よく色々考えているのだなと、僕は感心した。
能力名はマリリンマンソンのアルバムの曲から取りました。能力は適当です。




