第八話 モンロークラウト
「結局のところ、僕たちは何をすればいいんですか?」
僕はミルズに聞いた。自己紹介が多すぎて話がちっとも進んでいない。
わかっているのは僕の他に11人が人造人間に改造されたこと。そして僕のオリジナルが僕を含めて7人いるということだ。
その内僕ともう一人はこの研究所にいる。人工AIに意識を複製した日本人の杖技平蔵博士こと、ミルズがこつこつと作った施設だ。
他のみんなも目的がなければ生きる道筋がわからない。ミルズは改めて説明した。
「ここを出たのはモンロースニーク、モンローエクストラ、モンロースナック、モンローセンプ、そしてモンロークラウトの5人だ。うちスニークは龍京で金剛を苦しめて楽しんでいる。自分の意志で行動していると思い込んでいるのさ。もうじき決着がつくと思うがね」
ミルズの言葉に超人、雪花、虎鳳は複雑な心境だ。何せ自分たちの身内が偉大なる神、英雄の名をけがしたのだから。
「……残るモンローを殺せばいいのか?」
超人が苦々しく答えた。そりゃそうだろう。外の世界を出て好き勝手に行動しているのだからね。だからといって狭い核シェルターから逃げ出したい気持ちはある。
しかしミルズはそれを否定した。
「殺すのはクラウト一人でいい。他の連中は見逃しても構わない」
「どういうことですか?」
「クラウトの目的は人類の抹殺だ。奴の能力は音波を操り人体発火を起こす。これを喰らえば人間はあっさりと松明のように燃え盛って死ぬのだ」
「……それは一度に複数は無理ということですか?」
指パッチンで人類を滅ぼせるなら、さっさとしているはずだからね。恐らく人体発火は条件が厳しいのだろう。人に接触しないと発動できない感じかな。
「まさにその通りだ。クラウトはモンローの他にもある人間の意識と合わせている。そいつはモンローと違って知名度は低いが、カリスマ性のある奴なんだ」
「ある人物の意識を? なんでそんな真似を……」
僕は言葉を飲み込んだ。僕はチャールズ・ヒュー・モンロー。20世紀末ではもっともホットで有名な子供だった。そんな僕の知名度は世界中に散らばる神応岩の共鳴を受けている。
フランスの予言者、フランシス・ノストラゴメスの予言が1999年にぴたりと当たったのもそのためだ。正確には無理やり予言を当てるように仕向けただけだが。
今いる施設には19歳の僕と、ズルタンのオリジナルの半分こがいる。モンローが受ける影響を躱す意味があった。
モンロークラウト。一体誰と組み合わせたんだ?
「龍英雄だよ。超人の父親であり、雪花の夫であり、虎鳳の兄でもある英雄だよ」
ミルズがあっさりとネタ晴らしをした。なんとも悪趣味な展開だろうか。彼等が神とあがめる英雄をよりによって世界を滅ぼした僕と合体させたのだから。
「嘘だ!!」
虎鳳が叫ぶ。ランプの精のようにでっぷりと太った身体から出る声は迫力満点だ。
「哥哥の遺体は王大頭が食べたんだ!! お前らの言う神応石の複製なんか作れるわけないだろう!!」
「ええ、私も見ましたよ。あの人の遺体が食べられた姿を……」
雪花は切なさそうに答えた。氷像のように冷たい印象があるがそれは外見だけで、内面は夜叉のように怒りを燃やしているのかもしれない。
「……実は君たちの周りには儂とは違う小型のAIがいたのだ。そこから英雄の情報を集め、英雄の人格を作り出したのだよ」
そんなことができるのか? というか英雄が神扱いされているから、人格も神に近いんじゃないのかな?
「もちろん身内の話も収集しているよ。英雄は真面目で律義な性格だが、融通の利かない頑固者らしい。一度決めたら一直線に突っ走る。人の話を一切聞かないそうだ」
ミルズの言葉に虎鳳は黙った。恐らく図星なのだろう。
「そこにモンローの悪魔的頭脳が加わったのだ。英雄は今の世界を憂いている。元々中華帝国は無神論者が多い。唯一尊敬しているのは皇帝だけだ。その皇帝もビッグヘッドとして生まれ変わり、エンペラーヘッドとして君臨している。さすがの英雄も皇帝に手出しをするつもりはないらしい。それ以外の人類は皆殺しにする予定らしいがね」
オルディネ教は一神教だ。神は一人だけで、他の宗教の神は一切認めない。中国の皇帝崇拝はオルディネ教にとって忌み嫌う行為だ。神はあの世で人間を見守っているのだから。
「哥哥の性格ならあり得る話だ……。哥哥は士官学校に通っていた。将来は皇帝陛下の親衛隊になるのが夢だった。皇帝以外の人類を滅亡させれば、事実上中華帝国が世界征服した形になるからな……」
世界征服。歴史上では何度も世界征服を望む英雄が現れた。だが現実は難しい。自国が厳しいのに他国を支配しても国が疲労するだけだ。
古代ローマ文明も、当初はイタリア半島だけを支配していた時はのんびりしていた。だが100年にわたるアフリカにあるカルタゴとのポエニ戦役のおかげで地中海の覇者となった。
だが支配地が広範囲となったため、情報伝達が遅くなり、抱える人口の為に政治もうまくいかなかった。勝者の迷走と言う奴だ。
アメリカも第二次世界大戦で勝利者となったが、ソ連との冷戦に突入した。アメリカ国民は豊かになるどころか、格差が広がるばかりであった。紛争地域に赴いては発展途上国を経済で支配したが、テロリストの標的となり、軍の撤退を余儀なくされてきたのだ。
「……僕は皇帝について詳しくない。偉い人としか聞いていないんだ。だけど皇帝以外を滅ぼしてなんになるんだ? 自分以外の人間を滅ぼして自分は偉いと思い込むのかよ?」
超人は怒りに震えていた。そりゃあそうだろう。自分の父親が皇帝の為に全人類を滅ぼすと宣言したのだから。
「その滅ぼす相手は自分も含めているよ。それに皇帝だけの世界じゃない。ビッグヘッドたちがいるからね。なんでも命令を聞く兵士だよ」
ミルズが答えた。ビッグヘッドにはしゃべることができる品種もいる。そいつらが皇帝の世話をするというのだ。世界をビッグヘッドだけで埋まる。そんな世界を築こうとしているのだろう。
「世界中の文明はすべて食い尽くされる。すでに王大頭は世界中を旅していて、主だった原子力発電所や核廃棄施設に対してビッグヘッドたちを置いていった。すでにビッグヘッドに喰いつくされ、核燃料は涙鉱石となったのだ。汚染された町や森はビッグヘッドが作り出した森に生まれ変わっている。雪解け水で出来た被爆湖もビッグヘッドによって浄化され、ブラックバスやブルーギルといった外来種が住んでいる。世界は環境破壊から救われたのだ。君たちは自然豊かな世界に再び科学の力による環境汚染を繰り返すつもりかな?」
ミルズは挑発する。確かに20世紀は環境破壊が問題となった。森を切り倒し、鉱山を作っては毒水を垂れ流しにした。病人が出ても政府は利益のみを優先し、患者の事など一切無視した。
企業は政府に守られ環境汚染を楽しんでいた。利益のみ追及していただけだろうが傍から見れば地球をいじめて楽しんでいるようにしか思えない。
ゴミ問題もただ海に捨てたり山に埋めたりするだけだ。人類はもう狂っている。環境問題を解決しようとする人間は狂人扱いにして苛めていた。
今の世界は理想的な世界に映るかもしれない。すでに原子力発電所は停止しているし、核のゴミもビッグヘッドによって処分されている。人類は放射能の脅威を克服したのだ。
「かといって人殺しを見過ごすわけにはいかないな」
ズルタンが言った。彼はキノコ戦争が起きた直後に、被爆した人間を撃ち殺していたじゃないか。お前が言うな状態だね。
「あれは助からないから止めを刺しただけだ。平和に生きている人々を殺していい理屈はない。俺は犯した罪を償うためにもクラウトを止めよう」
なんとも真面目な人だろうか。確かに助からない人に安らぎを与えるのはよいことだ。自分が気に喰わないからと言って人殺しをするのは許されない。
「私も反対ですね。今の世界は私の好奇心を刺激されます。人類を滅亡させるなどあってはならないことです」
「まったくだな。俺も植物は好きだが、植物だらけも問題はある。人類と植物は古来密接な関係を持っていた。どちらかがいなくなってはなりたたぬ」
アシュラとバオバブも反対している。論点はずれているが、人類抹殺は許せないのだろう。
「私の推測ですが、クラウトを倒せるのは私たちだけなのでしょう。普通の人なら燃やされても、私たちは難しいのかもしれません」
ウンディーネが言った。クラウトがここを出ていく前に僕らを殺さなかったのは、殺すことが出来なかっただけなのだろう。
「……お腹空いた」
「うおー! なんとも素晴らしい展開だ!! これは漫画のネタにできるぞ!! なんて最高なんだ!!」
シンドバードとガリバーはマイペースだ。
「クラウトは何をしたいのかな? 世界中を回って生き残りを殺して回るのかな?」
「それはありえないな」
僕の疑問を虎鳳が口を挟んだ。
「哥哥はそんな手間のかかることはしない。村を一つずつ襲撃すれば必ず取りこぼしが出る。やるなら一気に滅ぼすだろうな」
さすがは実弟だ。英雄の性格をよく知っているようだな。
「じゃあクラウトは全人類を滅ぼす確信を得るまで、手を出さないというわけか。でもどうしたら滅ぼせるんだろう?」
「恐らくは神応岩を利用するつもりだろう。そのために他のモンローたちに協力を要請しているのだ」
ミルズが答えた。僕らの目的はクラウトだが、他のモンローを倒すことで計画を遅らせることが出来る。僕らの方針が決まった。
クラウトが英雄にしたのは、話を盛り上げるためでした。
最初は別の人間でしたが、既存のキャラを出した方が伏線らしくなって、面白くなると思ったからです。
月に4~5話を書くことでアイディアを温存できるのがいいですね。自分でも予測がつかないのが楽しいです。




