第七話 龍超人の告白
龍超人は幼少時から厳しく躾けられてきた。お前は偉大なる神、龍英雄の息子であると。
叔父の虎鳳はもちろんのこと、母親の雪花は口が酸っぱくなるほど父親の事を話した。
耳にタコができるほどである。
自分が生まれた時、世界は真っ暗であった。分厚い黒い雲に覆われ、毎日雪が降り続けていた。寒さと飢えで死にかけたことは一度や二度ではない。
なぜ自分たちが生き残れたのか。王大頭のおかげであった。王大頭は大頭と呼ばれる生き物を生み出す。巨大な人間の頭に手足がくっついた不気味な存在である。
もっとも幼少時から付き合いがあるので、あまり気にならない。
大頭は寒い雪の中でも平気で歩いた。廃村を中心に崩れた家や毒に犯された森などを食べていく。それを涙鉱石を目から生み出す。それらから涙膜から塩を作り、涙白肉や涙赤肉を取り出した。さらに涙木や涙糞で燃料の代わりにする。
さらには山羊を飼い、その乳を飲み、肉を潰しては食べた。
「それでも生き延びれたのは、この身体のおかげですね。私たちは亜人に変身したから生き残れたのです」
雪花はユキヒョウの亜人であった。超人は白ヤギの亜人である。英雄が白ヤギの亜人だったからだ。
ただし英雄の弟はパンダであった。
「あなたが私のお腹にいた頃、人肉の塩漬けを食べていました。私たちが人間だったら躊躇していましたが、亜人なので平気でしたね」
超人はその話を聞いても平気であった。自分も亜人だし人間の数はとても少ないからだ。人間は自分たちの食料と言う印象があった。
さて長い冬の時代が終わると、王大頭は大勢の大頭たちを各地に広めた。そして汚染された町や森を喰らいつくし、涙鉱石を集めたのだ。そして銅や鉄、金や銀なども大量に集まった。
それらを生き残った龍一族が独占した。他にも生き延びた一族がいたが、自分たちの優位に立つためだ。
自分たちの住んでいた村を中心に家を新築した。王大頭は大勢の人間の遺体を食べてきた。そこから砂粒ほどしかない神応石を集めてきた。そこから鍛冶や大工が得意な人間の記憶を採取し、一族の誰かに植え付ける。
上下水道や道路などが完成し、ヤギなどの家畜を殖やした。キノコ戦争の影響で肥大化したヤギウマやヤギウシは貴重な労働力となった。さらに王大頭は各地からイノブタやインドクジャクなど家畜や家禽の代用品を持ってきて増やしてきた。
電気はないがそれなりに快適な暮らしができるようになったのだ。
新しい街の名前は龍京。龍一族だけでなく、他の一族も大勢招いた。なぜなら龍一族は偉大なる英雄の生まれた国なのだから。
そして息子である超人は神の生まれ変わりとして扱われてきたのだ。
「息苦しいなぁ……」
10歳の頃はまだましだった。偉大な父親の息子としてちやほやされるのは気持ちがよかった。自分は特別な人間だと偉くなった気分になる。
だが段々超人に対して干渉が増えてきた。キンシコウの亜人である胖虎は武術を、アカギツネの亜人である小夫は座学を中心に学ばせたのだ。
自分と同年代の子供はいない。いたとしても他の一族から来たもので、対等な相手などいなかった。胖虎辺りが超人は尊い血筋だから粗相のないようにと命じるからだ。
「僕が英雄の息子であることはまだいい。しかし会ったことのない父親と同じようになれと言われてもピンとこないよ……」
超人は悩んでいた。自分は何をやってもできる、できないことなどあってはならない。失敗したら思いっきり雪花にぶん殴られる。そんな日々が18歳まで続いた。
「僕は一生英雄の代用品として過ごすのか。そもそも僕が大臣になるのはどうなんだ……」
超人はため息をついた。ここは龍京城といい、王大頭が大頭たちに命じて作らせた城だ。
最高の役職は大臣であった。普通は王様か皇帝ではないのか?
その疑問は叔父の虎鳳が答えてくれた。実はこの国は中華帝国と呼ばれており、皇帝が支配していたという。キノコ戦争によって首都の帝京は滅んだかに思われた。
だが帝京は滅んでいなかった。皇帝の死骸を食べた大頭は皇帝の意識を取り戻す。
そして自ら城を建て直し、皇帝大頭として君臨したらしい。
「我が一族は皇帝陛下のために生きるのだ。陛下を差し置いて王を名乗るなど言語道断。お前は大臣として皇帝陛下の代理人として有難く頂戴するのだ」
虎鳳がそう決めた。雪花たちは反対するどころか賛成した。彼等にとって皇帝陛下は重要らしい。
自分は皇帝の有難さがさっぱりわからない。雪花たちの話はうんざりしてきた。
「ああ、僕はこのままつまらない人生を終えるのだろうか」
そうつぶやいた瞬間、世界が真っ暗になった。
☆
「ここは、どこだ?」
超人は自分の身体が鉛のように重くなっていることに気づく。頭は蜂蜜のようにどろどろで思考が定まらない。一体何が起きたのだろうか。
どうも体がべとべとに濡れているようだが、いつ濡れたのだろうか。それに自分の身体が動きにくい。身体に鉄の棒でも差し込まれた気分だ。
「初めまして。龍超人さん」
自分を呼ぶのは誰だ? どうやら子供の様だが、なぜここに子供がいる? ここは自分の部屋ではないのか? 超人の頭の中にははてなの文字がびっしり並んでいる。
「お前は誰だ?」
「僕の名前はヒュー・キッド。昔はチャールズ・ヒュー・モンローという名前で、アメリカに住んでいたよ」
「知らないな、初めて聞いた。それで僕をどうしたんだ?」
「あなたは18歳の頃、ミルズの手によって神応石に記憶を刻まれたのです。今は32年の歳月が過ぎているのですよ」
何を言っているだろう。相手の言葉の意味が分からない。32年だって? 僕は50歳になっているのか?
視界がはっきりするとそこには人が見えた。それは二本足のシャムネコだ。他にも人面犬や人魚、巨大なカラスに下半身がない植物の怪物、巨大なネズミが7匹など様々だ。
「あっ、あなたは、本当に超人なの?」
超人に話しかけてきたのは、全身白銀で出来た女だった。生気を感じさせない冷たい身体である。髪の毛は逆立っており、威圧感があった。
「そっ、そういうあんたは誰なんだ? まっ、まさか……」
白銀の女の声には聞き覚えがあった。だが彼女がここにいるわけがない。夢に決まっている。こんなのは現実ではない、そう思い込んだ。
「その女性は龍雪花。あなたの母親ですよ。もっとも30歳の頃の記憶しか持っていないそうですが」
超人は頭がくらくらしてきた。なぜか30歳の母親と対面したのだから。それは向こうも同じようである。
「なぜ、私はそんな目に遭っているのですか? 私に何の恨みがあるというのですか!!」
雪花は怒鳴った。当然だろう。30歳の頃に神応石で記憶を複製し、人造人間に改造したと話をされても、素人には理解の範囲外だ。頭がおかしいとしか思えない。
「ところでそこの太っちょは誰だ? こちらも僕たちの知人なのか?」
「そうみたいですね。18歳の龍虎鳳だそうです」
ヒュー・キッドがあっさりと答えた。見た目はアラビアンナイトに出てくるランプの精だ。自分は金ぴかの身体で、西洋の王子様みたいな姿である。母親は白銀の身体だが女王様のように見えた。
「あなたたちを作ったのはモンロースニークです。あなたたちの記憶を複製し、人造人間に変えて楽しんでいるのですよ。ここにはあなたたちの仇である毬林さんがいるのですから」
そう言ってヒュー・キッドは一頭の人面犬を案内する。日本人らしいが顔つきは西洋人に似ていた。
こいつが仇だって?
「君たちが神とあがめている英雄を殺した張本人だよ」
それを聞くと超人の身体に電撃が走った。自分の父親を殺した本人が目の前にいる。雪花にしろ虎鳳にしろ目を血走らせ、怒りで頭に血が上っている。
超人は毬林を殺そうとした。しかし全身に張りを突き刺されたような激痛が走る。痛みで意識が飛びそうになる。他の二人も同じだ。猿の方は平然としている。
「君たちに毬林、ズルタンを殺せないよ。スニークがそう脳改造したんだ。断っておくけどズルタンの身内にも手を出せないよ。無理やりやったら死ぬらしいね」
ヒュー・キッドはため息をついた。あまりスニークのやり方には同意しているわけではないらしい。
超人は悔しくてたまらなかった。父親などどうでもいいと思いつつ、仇を見れば殺さずにはいられなかった。やはり自分は父親を尊敬しているのだ。
そこに猫耳を付けたブリキの塊が現れた。横に長方形の穴が開いており、目が光っている。
「わしはミルズ。君たちを起こしたのには理由がある。まずは今の龍京の話をしておこう」
そう言ってミルズは映像を交えて龍京の説明をしてくれた。そして50歳の超人が息子の金剛に嫉妬して抹殺を目論むこと、自分自身が王になってすべてを支配することを決意したことが明かされた。
超人は愕然となった。32年後の自分がそんなあくどいことをするとは思わなかった。
雪花や虎鳳も絶望で打ちひしがれていた。
「君たちは僕たちが不幸になるのが楽しいのか? 僕らが絶望の淵に沈むのが嬉しいのか?」
「実を言うとスニークは考えて改造したのです。あなたたちの年代では特殊スキルが使えるのですよ」
スキルだって? こいつは何を言っているのだろうか。
「ところで龍京の方はどうなったんだ? 今すぐ超人をぶちのめしに行くか?」
虎鳳が興奮気味に言った。当然だろう、兄の息子が暴走しているのだから。
「こちらは金剛に解決させよう。そのためにズルタンの娘であるディーヴァが手助けに行ったのだから」
そうミルズは説明した。




