第六話 意外な人が甦りました
「世界中ではほとんどの人間が亜人に変化してしまったのだよ。ポルトガルは今はヒコ王国と名を変えている。魚人という亜人が生まれているのだ。インドではガルーダ神国と名が変わり、鳥の亜人が幅を利かせている。世界各国ではそんな状況が続いているのだ」
ミルズが説明してくれた。人間が亜人に変化するなど、なんと都合がいいことだろうか。
毬林満村は顔が曇っていた。
「だがそれほどご都合主義とは思えないな。元々1999年は世界全体が窮屈な空気が漂っていた。ノストラゴメスの大予言がもてはやされたのも、世界が滅んで白紙になることを望んでいたのだ。それでも人間、命は惜しい。亜人、獣などになることで生き延びたいと願った結果が今の状況なのだ」
「で、ノストラゴメスの大予言は今も生きているのか?」
「ノストラゴメスよりもチャールズ・モンローに対する悪意は今も根強いぞ。文明は中世ヨーロッパ風になってしまったが、モンローに対する敵意は今もなお燃え盛っている。自分たちの不幸はみんなモンローのせいだ、モンローの悪口を言えば幸福になれる、モンローを象った人形を壊せばすっきりするなど色々だ。そしてモンローの象徴である科学を憎んでいる、憎み切っているのだ」
なんとも情けない話だろうか。自分たちは努力をしたくない、相手が自分を理解しろと言うようなものだ。ただ他者を攻撃することで満足し、自分はまったくウーパールーパーのように成長しない。変化のない自分に酔いしれているのだ。
いや僕の時代もそうだった。大衆は文句ばかりつぶやいて、自分で行動する人間はいなかった。いるにはいたが、大抵は出る杭は打たれると言わんばかりに潰されていった。僕みたいに潰れない人間に対して残虐さを増していったと思う。
「世界のことはどうでもいいわ。大事なのは私たちが何をすればいいかってことよ。あなたたちは私たちを人造人間に改造して何をやらせたいわけよ」
毬林茉莉花が答えた。確かに僕らは改造され人造人間になった。そもそも僕のオリジナルが僕を含めて7人いる。その内5人はどこかへ消えてしまった。そいつらを何とかするのだろうか。
「その通りだ。まずは龍京、新しく中華帝国に生まれた都市だ。現在モンロースニークが行動を起こしている。まずはそいつを止めるのが先決だな」
ミルズは考える。スニークは龍金剛の恋人である人間の女に特殊な細胞を植え付けた。時間が経つと彼女は死んでしまうらしい。
金剛たちが留守の間に龍京を襲撃し、すべてを灰に変えるのが目的の様だ。まったく悪趣味にもほどがある。
「で、誰が説明するわけ? まさかあなたたちが説明するわけにはいかないでしょう?」
茉莉花が言った。確かに僕らの姿は異形だ。明らかに妖しい。僕らは味方ですと言っても聞く耳持たない可能性が高い。
「ここはひとつ私が金剛に接触するわ。そしてモンローの秘密をさわりだけ教えるの。私ならまだ人間に近いし、落ち着いて話を聞いてくれるはずよ」
茉莉花の言い分はもっともだ。自分たちでは説得できそうもない。すべて彼女に任せよう。
「途中まで誰かに送ってもらう方がいいわね。誰がいいかしら?」
「それなら、空を飛び私に、まかせて……」
窓名院慶子が答えた。巨大なカラスの身体を持っている。茉莉花の体なら簡単に足で掴んで飛んでいけるかもしれない。
「その前にみんなの名前を決めよう。我々はすでに死んでいるのだからね」
ミルズが提案した。そういえばミルズこと杖技平蔵さんはどうしたんだろうか。
「儂の身体はベッドの上で身動き取れなかったよ。自分の思考パターンをAIに移植して今のミルズが出来上がったのさ」
ミルズがそう言った。僕が15歳の頃に平蔵さんが思考パターンを読み取り、それをAIに移植したがまさか延命になるとは思わなかった。
「で、名前はどうしようか?」
僕は悩む。そこに慶子が口を挟んだ。
「思い切って、おとぎ話の名前を使おう。その方が覚えやすいし……」
なるほどと思った。そこで慶子が名前を付けてくれた。
毬林満村:ズルタン。イギリスの童話に出てくる犬の名前。
毬林魅羅:ウンディーネ。水の精霊。
毬林茉莉花:ディーヴァ。歌姫。
窓名院慶子:シンドバード。アラビアンナイトの登場人物。
金城外陰:バオバブ。星の王子様に出てくる植物の名前。
神五郎:ガリバー。童話の名前。
杖技網厚:アシュラ。
「なんで網厚だけアシュラなんだ?」
「該当する童話がなかったからです」
慶子ことシンドバードが答えた。
「では私ことディーヴァが行きます。じゃあね」
ディーヴァはあっさりとシンドバードとともに旅立った。ズルタンとウンディーネはその後姿を見守った。
「随分あっさりとしているな。もう少し粘るかと思ったのに」
僕の両親はクズだ。ズルタンたちのような親子関係は羨ましいと思った。
「ところで僕の名前はどうしようか?」
「そうだな。ミドルネームのヒューを取って、ヒュー・キッドと名付けよう。ヒーローぽい名前でいいだろう」
ミルズが答えた。僕もそれでいいと思う。
「そうだヒュー・キッド。頭の中でディーヴァへ呼びかけてみなさい」
ミルズが言ったので、僕は素直に従った。頭の中でディーヴァを呼びかける。すると頭の中に響く。
『あれ? 声が響いている。どういうことかな?』
頭の中にディーヴァの声が響いた。これはどういうことだろうか。ミルズ曰く人造人間は電波を発信するという。遠くにいても受信することができるそうだ。ちなみに他のモンロー達には使えないという。そう改造したそうだ。
「これで我々は世界各国に散らばっても、念話で会話できる。我々はできることをしよう」
ミルズがそう言った。
「実はあと4人、人造人間がいるのだ。こちらも目覚めさせよう」
そう言ってミルズはとある部屋に案内された。水槽が4つ並んでおり、中には人が浮かんでいる。
ミルズの知り合いだろうか?
「こちらはスニークが好奇心を刺激されて生み出された存在だ」
ミルズはディスプレイに向かって、キーボードを撃ち込む。水槽の中身が無くなると、水槽が開いた。
それは巨大な猿だった。次に身体が金ぴかで出来た王子様のような人間、身体が白銀で出来た女性、そしてアラビアンナイトに出てくるランプの精のような男であった。
「彼等は誰なんだ?」
「ズルタン、君と関わりのある人間だよ」
ズルタンの質問にミルズが答える。すると大ざるが目を覚ました。大ざるは最初ぼんやりと目を開けていたが、すぐに目を見開き、驚愕の声を上げる。
「なっ、毬林ではないか!! 犬の身体になってどうしたのだ!!」
「そっ、その声は申環境大臣ではないですか!! なぜそのような姿に!!」
申七星。中華帝国の環境大臣だった男だそうな。ズルタンとはビッグヘッドで繋がっていたという。
「環境大臣を改造するとは……。いったいどういうわけですかね?」
アシュラは呆れていた。研究しか興味のない彼でもこれには驚いたようだ。
「君は、杖技博士なのかね? こっ、この身体は何だ!? 私はいったいどうなったんだ!!」
環境大臣は慌てふためいた。これが正常な人間の反応だ。ミルズが説明すると大臣は烈火の如く怒った。
「なんだって!! すべてはお前の責任だったのか!! 世界を滅ぼし、偉大な皇帝を殺害するとは言語道断、殺してやる!!」
環境大臣はつかみかかった。ズルタンと違って真っ当な行為に僕は感動した。いやいや彼の両手が僕の首を絞めようとしている。僕はそれを振り払った。
「落ち着き給え。申大臣。実は皇帝陛下は死んでないよ。皇帝大頭として生まれ変わったのだ」
これは意外な事実であった。中華帝国の皇帝は知っているけど生きていたとは思わなかった。
「実は皇帝はビッグヘッドに遺体を食われ、その神応石によって皇帝大頭に変貌したのです。かつての帝京は奇麗に食べて更地になった。そこから新しく城を建てて今は新しくなったのだよ」
ミルズの説明に申大臣は目を丸くした。証拠はあるのかと詰め寄ると、映像を映し出す。そこには古代中国の城が見えた。中心には巨大な木が生えている。その木は顔が付いていた。それを見て大臣は涙を流す。
「おお、皇帝陛下!! まぎれもない尊顔だ!!」
「今の皇帝はほぼ不死になっている。分身のビッグヘッドたちが文官になり、武官になっているのだよ。龍京では最高権力者は大臣となっている。これは皇帝を差し置いて王を名乗ることを不敬と思っているからだな」
なんでも龍一族は新しく都を作った。だが途中で帝京の噂を聞き、実際に訪れた。そして皇帝と謁見したらしい。
なので龍京ではあくまで皇帝の手先として大臣という役職にこだわったという。龍一族は王になりたいわけではない。皇帝が生きていればその身を粉にして働くこともいとわないようだ。
「そうだったのか。陛下は中国4000年の歴史の中で唯一の不死者となったのか。それなら許してやろう」
大臣は偉そうだ。いや彼は皇帝に心酔しているのだ。個人主義のアメリカ人である僕には理解できないな。
「今日からあなたはゴクウだ!! 三蔵法師を護り、妖怪たちを叩きのめして仏門に下した西遊記の主人公の名を継ぐべきです!!」
スルタンが叫んだ。彼とゴクウは仕事でしか付き合いはないそうだが、それだけではなかそうである。
「あとの3人はどこの誰ですか?」
「こちらの王子様は18歳の龍超人。銀色の女性はその母親で龍雪花。ランプの精っぽいのは龍英雄の弟である18歳の龍虎鳳だ」
……。あれ? その3人は生きているんじゃないのか? ミルズに説明されても僕は理解できなかった。
本来ゴクウは新キャラの予定でした。しかし新キャラを増やしまくるのはどうかと思い、序章に登場した環境大臣に名前を与え、ゴクウとして復活させたのです。
他にも意外な人物の名前が出てきて驚いたと思いますが、次回をお楽しみに。




