第五話 神応岩とはなんなのか?
「神応岩とはなんなのさ?」
僕はミルズに尋ねた。金属でできた猫耳の機械をプルプル震わせている。可愛らしく見えるが中身は80を過ぎた爺さんだ。もっとも日本人はアメリカ人と違い達観している傾向がある。どこか神秘的な雰囲気があった。
「うむ、神応岩とは神応石を何十万人分に集められたものなのだよ」
神応石を集めただって? 誰がそんなことをしたのだろう。僕みたいに墓場を掘り起こす罰当たりが何人もいたのかな?
「実は神応石は神応石同士集結する性質があるのだよ。もちろんミミズが土をはいずり回るより遅いがね。それらが何十万年もの間に出来上がったのが神応岩なのだよ」
「それって原始時代の人たちも含まれているのだよね。神応石自体を発見したのはつい最近だけど、神応石自体は人類誕生から存在していたわけだし」
毬林茉莉花が答えた。見た目は成熟した黒人女性だが、中身は10歳で小学生だという。幼さとのギャップが激しいな。
だが彼女の言うことは的を射ている。地球上には大勢の人間が神応石を宿したまま土の中に埋まっている。大抵は墓地を作り、まとめて埋葬しているだろう。それらが気の遠くなる年月を重ねて、砂粒ほどの小さな神応石を岩のように大きくしたのだろうな。
「神応岩か……。神応石の事は知っていたけど、そんなことになっていたとは……」
「ガイアってギリシャ神話の大地の女神から採ったのかしら。ぴったりな名称ね」
毬林満村とその妻である魅羅が話をしている。満村の場合は自分の会社で神応石を扱っていたようだが、詳しくは知らなかったようだ。
魅羅の方は名称に対して感心している。確かにぴったりだと思った。
「さらに詳しい説明をしよう。だが起こしたい人間はまだ多くいるのだよ」
ミルズは僕らをとある部屋に案内した。人魚の魅羅は満村が自分の身体に乗せて移動している。そこにはいくつものシリンダー型の水槽が並べられていた。
その中にはチンパンジーが水槽の中で浮かんでいた。だが首が三つ付いている。両腕は六本もあった。まるで仏像で有名な阿修羅像だ。
他にも巨大なカラスや、緑色の蔓で構成された両腕が肥大化した両足のない人間もいた。
ネズミの頭に手足をくっつけたようなのが、七体も浮かんでいるのもあった。
ミルズは部屋の隅にあるモニターに近づいた。そしてマジックハンドでキーボードを撃ち込んでいく。
すると水槽の水が抜け出て、水槽が開いた。その内チンパンジーの眼が開く。
「このチンパンジーは儂の孫、杖技網厚じゃ。普段考える頭と手が足りないと嘆いていたから、望み通りにつけてやったのだよ」
ミルズは身体を震わせながら笑っている。だからといって孫をチンパンジーの身体に改造するのはどうかと思うが。
「なっ、なんだこの身体は!! それに僕の頭が三つもあるぞ!! 腕が六本もある!!」
チンパンジーこと網厚は驚いていた。当然だろう、目を覚ましたら自分の身体がチンパンジーになっていたのだ。驚かない方がおかしい。
「ひさしぶりだな網厚。儂だよ平蔵だよ。今日はお前の願いを叶えてやったんだ、ありがたいと思え」
「うおぉぉぉぉぉぉ!! おじいさんありがとうございます!! いつも頭と手が足りないから、イラついていたんですよ!!」
逆に喜んでいる。なんなんだこいつは。
「網厚……。なんとも変わり果てた姿になったな……」
「おお、満村先輩ではないですか!! 犬の身体になって機動力が増しましたね!!」
「ふぅ、君は相変わらずだな。俺がこんな姿になっても通常運転だな」
満村と網厚は先輩と後輩の間柄だという。変わり者の後輩が唯一の友達とは寂しい限りだな。いや、親しい人が一人いるだけでいいんだ。広い世界で友達が大勢いれば幸せとは限らない。
「……ここは、どこだ?」
植物の男が目を開き、口を開いた。他にもカラスがパクパクとくちばしを開くと、中から5歳くらいの女の子を吐き出した。ネズミの頭は七体ともきょろきょろしている。彼等は何ものだろうか。
「植物の男は金城外陰と言って儂の友人だ。植物学者でビッグヘッド製造にも力を貸してもらっている。網厚と共に中華帝国に来ていたのさ。
巨大なカラスは窓名院京助でこちらも儂の友人だよ。弁護士をしているんだ。女の子の方は娘さんの慶子さんだ。知的障碍者で中華帝国には二人で旅行に来ていたのだよ。
ネズミの頭は神五郎という漫画家だよ。他の6体は神先生の兄弟さ。こちらも姉弟全員で中華帝国のイベントに参加していたね」
ミルズが説明してくれた。自分の知り合いを人造人間に改造するなんてどうかしている。自分は平気かもしれないが、他人がどう思うかわからないだろう。いや、僕も人の事は言えないな。当時の僕は親に反発してばかりだった。
「……なんで私の身体を植物に改造した?」
「お前は植物学者だからな。その身体にはあらゆる植物の遺伝子情報が詰まっている。足がないのはお前が同情されるのを嫌っているから付けなかった」
「ほう、わかっているじゃないか。さすがはわが友だ。私を知らない人間は足が欠けた私を同情して哀れむ自分に酔いしれるからな」
外陰は心なしか弾んだ声を出している。身体を改造されても動揺してないな。
「……私の身体がカラスなのは、どういうわけかな?」
女の子が声を出した。なんで自分の事をカラスと思っているのだろうか。いや、カラス自身が女の子を中継して言葉を発しているのだろう。
「君は娘さんの世話をできずにいた。奥さんには逃げられていつも施設に預けられている娘さんに罪悪感があった。だから君の身体を巨大なカラスに改造して、娘さんといつでも一緒にいられるようにしたのだよ。ちなみに娘さんの症状は回復済みだよ。そうだよね?」
「はい、とてもすっきりしています。お父さんの声もきっちりと聴こえますね。ただお父さんがしゃべりたいときは代弁しますが」
慶子はきっちりとした口調で答えた。なんとも斜め上な発想だろうか。巨大なカラスに改造された上に、娘をいつも飲み込むなんてありえないだろう。
すると京助の眼から涙がこぼれた。
「ありがとう。お前のおかげで娘といつでも一緒にいられるようになった」
感謝していました。ミルズの知り合いは人造人間にされても平然としているのが怖い。
「ところで私たちはどうしてこのような姿になったのですか?」
今度は神五郎たちだ。どちらも同じ顔に見えるが額に漢数字で番号が書かれてある。
五が神五郎なのだろう。
「君たち兄弟は仲がいいからね。今はバラバラだけど合体して人型になれるよ。それに君は漫画を描くたびに別の人格があると言っていただろう。最初は君の頭を複製して別人格を作ろうと思ったけど、兄弟が揃っていたから、そちらにしてみたよ」
「なるほど! そいつはいい判断だ!!」
なぜか五郎は納得していた。他の六体も同じだ。僕は日本人という人種が理解できなかった。
そこにミルズがささやいた。
「実は神五郎はそらとぶ! オムスビマンの作者でもあるのだよ」
なんと!! 僕の愛読している絵本の作者だったのか!!
「しかし漫画のワイセツ学園の人気が高くてね。オムスビマンはやめてしまったのだよ」
ワイセツ学園とは小学生が女の子たちにワイセツを働く作風だそうだ。さらに学校の先生たちも同じように女子生徒にワイセツをするギャグマンガだという。そのためPTAなどに糾弾されたそうだ。アメリカでは訴訟されてもおかしくない内容だな。
ミルズは自分たちに起きたことと、僕が世界を滅ぼした存在であることを説明した。
「なんたることだ。人間はともかく貴重な植物を灰にするなんて愚かにもほどがある」
「ここにはその珍しい植物を育てているよ。お前好みの植物は一通りある」
「そうなのか! そいつはよかった!!」
外陰氏は世界を滅ぼしたことより、植物さえ無事ならいいみたいだ。
「世界が炎に包まれましたか。しかし頭のおかしい人間も一掃できたから、すかっとしますねと、お父さんが言っております。私はお父さんと一緒なら構いません」
「まったく僕でも思いつかない展開だね!! 僕の役目は滅んだ漫画の復活かな!!」
京助氏や五郎先生は僕を責めない。正直、僕はそれが怖い。誰も僕を責めないなんておかしいもの。彼等の方が異常者に思えるよ。
「そうだ網厚。お前に見てもらいたいものがある。まずはあそこにあるモニターを見てくれう」
ミルズがそう言うと、網厚はよたよたとモニターに近づいた。画面には世界地図らしいものが移されている。そこにはなにか円が点滅していた。
「なっ、おじいさんこれはどういうことですか!!」
網厚は驚いていた。一体何に驚いているんだろう。
「それは一九九九年の七月に起きたものだ。人工衛星を乗っ取ってデータを採取したものだよ」
ミルズが説明してくれた。複数の円が世界地図を覆うように点滅している。まさかこれは!!
「あれは神応岩が点滅していることを示しているのか!!」
「その通りだ。当時世界各国に埋まっていた神応岩が一斉に活性化したのだ。アメリカや欧州ではノストラゴメスの大予言が盛り上がっており、その恐怖の大王がチャールズ・モンローであるとやり玉に挙げられた。あの時代は不況もあり自分たちの不満をモンローにぶつけることでストレスを解消していたのだよ」
ミルズが吐き捨てるように言った。
「……クラスでも話題になってたね。私と真仁、真咲は信じてなかったけどね」
茉莉花は鬱な表情になった。恐らく僕を攻撃して楽しむ人種に呆れていたのだろう。
「そして神応岩の影響は今でも続いている。人類の一部が亜人になったのもこいつのせいなのだよ」
ミルズの説明は続く。
杖技網厚はマリリン・マンソンの元メンバー、ツィギー・ラミレズです。
金城外陰はギジェット・ゲインです。
窓名院慶子はマドンナ・ウェイン・ゲイシーです。
神五郎はジョン5です。モデルはやなせたかし先生、さいとうたかを先生、永井豪先生です。




