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オーガ

「···凄いね、アマンディお兄ちゃん!」


「だろぉ? もっと出来るんだぜ?」


 恭平の前で、アマンディとエスティが笑いながら歩いている。


(懐かしいな。愁が小さかった時、よくこうして香と···)


 西の街アースリーを出て、のんびりと次の街を目指しながら歩く恭平とその御一行さま。


 途中にあったプリムの木にたわわになっていたプリムを収穫し、木陰で食っては、少し昼寝をしての歩き。


(元に戻るの大変な癖にコイツはまた···)


 妹みたいなエスティが出来て、嬉しいのはわかるが···。


 いつまで、この道を歩くのだろうか?


 延々と続く木や草しかない道。人も動物も出てこない。


「ねぇ、おじさん。ずっと向こうでなんか音がするよ。カキン、カキンって」


 エスティが立ち止まると、道しかみえないずっと先を指さした。


「道しか見えん。エスティ達は、耳がいいのか?」


「うん。でも、あの時は何も聞こえなかった···」


「大丈夫だから。少し抱っこしてやろう」


 エスティを抱っこすると、すかさずアマンディも頭に乗ってくる。この世界の人は、あっちの世界と違って、軽いから疲れない。


「おじさんも、いつか家族に会えるといいね。あたしもパパやママに会えるかなぁ」


「会えるさ。まだ、死んだと決まった訳じゃない」


 血の一滴も見つからなかったから、拉致でもされてるのか?街の人全員を?!


 アマンディは、ヒーリング以外の魔法も少なからずあるのだろう。休憩を挟む度に、彼は色々と俺の身体を這っては、遊んでるし、若かった頃のように力が蘇ってきてる。


 珍しく前方の空に何かが飛んでるのが見えた。


「この世界にも、鳥がいるのか?」とアマンディやエスティに聞くと、鳥はいるけど空は飛べないと答えた。


(じゃ、あそこで飛んでるのは?)


 それが、鳥ではなく人間というのが近づいてからわかった。


 背中に大きな羽根を羽ばたかせ、カラフフルな小さなものと戦っているらしいが。


「あー、ベルクスだ」


「ベルクス? なんだそれ」


 俺はてっきり、ベルクスというのが空を飛んでる男かとおもったが、それは反対だった。


「おかしいなぁ。いつもは笑って転がってるだけなのに。ベルクスーーーっ!」


 エスティが、大きな声でそのカラフルなものを呼んだのがいけなかったのか、その声に宙に浮かんでいた男が驚き、動きを止めた瞬間、ベルクス達が体当たりをし、バサァッ···と大きな音を立て、地上に落下。


 男は、ドサッと地上に落ち、一度跳ねて止まった。


「おじさんっ! ベルクスだめーーっ!」


 エスティが叫んだ瞬間、ベルクスは倒れて動かなくなった男に飛びかかろうとしていたが、一瞬動きが止まった。


「おじさん。助けてあげて。あの人、死んじゃう!!」


 エスティは、恭平の首にしがみつきながら、言った。


(助ける? でも、どうやって?)


 恭平は、わけもわからず足を一歩踏み出した瞬間!


「ポテイションッ!」


 大きな声が上から聞こえ、恭平は思わず見上げ声を上げた。


「馬に人が乗っている···」


「誰?」


「わからん。ボク初めて見た」


 馬はよく牧場とかで見る馬だったが、茶色い大きな翼がバサバサと羽ばたき、その上には長い髪を括っている男性が、下で見上げてる恭平らを睨んでいた。


「おじさん、さっきの人消えたよ?」


「うん。魔法か?」 


 目の前で人が忽然と姿を消すなんてことが、あるのだろうか?ふと、そんな事を考えてた時、空中にいた騎士?が降りてきた。



「サブリクス!」と言った瞬間、ベルクスがほうぼうに散っていった。


「怪我はないか?」


「あ、はい。あの···」


「おじさん、さっきの人は?」


「アイツは、城に運んだ。俺は、オーガだ」


 馬から降りた男は、そう言ったが。


 背は、恭平より少し小さかったが、男ではなく、紛れもない女だった。


「貴様らは、なぜこんな危険な場所にいるんだ!」


 そう言われても困るが、これまでの経緯を恭平が話した。


「そのスマホとやらは?」


 約にも立たないであろうスマホをオーガと言う女に手渡したが、すぐに返された。


「ここは危険だ。すぐに安全な場所に行け。この道を真っ直ぐ行けば、北の街·ボスクルがある。これをやる。これを街の長に見せろ。何かの役にはたつだろう」とメダルみたいなのかついたキーホルダーみたいなものをオーガを恭平に渡すと、空へと駆け昇っていった。


「今のは?」


「わからん。なにがなんだか」


 困惑するふたり···いや、ひとりと一体。


 そんなふたりを見上げて、エスティが言った。


「おしっこ」


「「······。」」


 こんな場所にトイレなどなく、大きな草むらの中で、エスティは用を足した。


「ベルクス、あんなことしないのに」


 ベルクスは、一体一体がアマンディより少し大きい位だが、それがブロックのように大きな壁となって、騎士を襲っていた。


 この時の恭平ら御一行とオーガが、再び会うのは、それから暫くしてからのこと。



「さぁ、おやすみ」


「お前も···」


 自由変気なアマンディ。彼は、身体を大きく伸ばすとエスティや恭平の身体を包み込む。中に潜っても息が普通に出来るのが、面白くキャンプを思い出したりもした。


「いいのか? キョウヘイ、そんなもん出して」


 エスティが眠ったのを確認し、恭平はポケットから使えないスマホを取り出した。


 圏外ではあるが、中を覗く事ができる。


「それが、キョウヘイの子供か?」


「あぁ。今頃になって、後悔してるよ」


(恐らく俺は死んでる)


「似てるな。ボクは、父さんに似てるっていつも母さんが言う」


 アマンディの父さんや母さん?同じスライムだから、似ててもおかしくはないだろう。


 フォルダにあるのは、香や産まれたばかりの愁の写真。別れてから何度か会ってはいるが、写真を撮ることもしなかった俺に、香が送ってくれた写真が沢山収められている。


「キョウヘイの住んでた世界は、ここと違って幸せなのか?」


「どうかな。仕事仕事だったし。俺は、父親としても夫としても駄目な方だから」


「駄目? だって、仕事は家族を守る為にするんだろ? 仕事して、報酬を貰って、家族の笑顔を見る。それじゃ、駄目なのか?」


「人それぞれ違うよ。さ、寝るか。お前だって疲れただろ」


 恭平は、エスティを胸に抱くと、そのままを目を閉じた。


「会えるといいな。いつか、必ず。おやすみ」


 アマンディは、小さく言い、目を閉じた。



「あ! 川だよ!」


 抱っこされていたエスティが、そう言って足をバタバタさせ、下に下ろす。


「えらい元気だな」


 やはり、目の前で両親が消え、誰もいないのを目にしたのがあるのだろう。エスティは、寝ていても時々泣いて起きてしまう。


 その度に、恭平は背中を叩き、アマンディは何かの歌を歌ってエスティを落ち着かせた。


「あれか? なんか大きな十字架か見えるな」


 エスティは、土手に座って川の中に足をつけ、バシャバシャさせていた。


「あれが、ボスクルの街か。なんかわかるといいけど」


 あれから誰に会う事もなく、街の近くまではこれた。この街で何がわかるのだろうか?検討もつかない恭平だった。


「エスティ! そろそろ行くからおいで」


 恭平の声に気付き、エスティは笑って駆け寄ってくる。


「お腹すいたー」とエスティは言ったが、麻袋の中には、パンがほんのひと切れ入っているだけだし、ミルクも水も底をついていた。


「あと少しだけ我慢出来るか? ほら、これを上げるから」


 ひと切れだけのパンを渡すと、エスティは少し考えてそのパンを三個に分けて、アマンディや恭平に渡した。


「お腹空いてるの、おじさんもお兄ちゃんも同じ。半分こ」


「あと少し。頑張れ、キョウヘイ」


「······。」


 苦笑しながらも、恭平はエスティを抱き上げ、アマンディを頭に乗せた。


 川からおよそ15分位歩いただろうか?


 ボスクルの街に着いた。


 不思議な街だった。街には街だが···


 人ではなく、人狼?


「と、とにかく行ってみよう」


「おじさん···」


 アマンディもエスティも俺も、人狼?みたいなのは、見たことはなく、緊張しながら街の中に入っていった。


「あれっ?!」


「あれー? おっかないのは?」


「確か、さっきは···なぁ」


「うん」


 門の前から見た時は、確かに顔からして皆狼みたいな姿をだったのに、街の中に入ったら、ちゃんと人間の形をしていた。


「そうだ! 長だ。長を探さないと」


 オーガに言われた、長を訪ねろと。


 手近なテントで花を売っていた婦人に、メダルを見せ、長の家を尋ねると、快く教えてくれた。エスティに小さな花までくれた。


「ここだ、な」


「うん」


 長をというからデカい家を想像したが、意外とこじんまりした家屋だった。


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