元社畜、迷子のスライムを拾う
「スライム? きみが?」
(愁が、昔やってたド○クエにそんな名前のが出てた気もしたが)
恭平は、しゃがんで目の前にいる水色の生物を眺めていた。
「うん。僕、みんなとアースリーに向かってる途中、ホワイティン見つけて、追っかけてたら···」
(···で、迷子って訳か)
警察にでもと思ったが、恭平はここが何処かもわからなかったし、だだっ広いこの草原!遠くを見ても、街のまの字も見えてこない。
よって···
スライムという生物を何故か、頭に乗せ歩く事になった。
(何故、頭なのだろうか? 普通、肩とかでは?)
まぁ、そう重いものではなく、頭に乗せると頭皮が···
「おじさん、お名前なんて言うんですか? ボクは、アマンディです」
スライムは、頭上から声を掛け、自らを名乗った。
「俺? 俺は、伊勢谷。伊勢谷恭平」
頭皮が、ひんやりと···
「イセヤ···キョウヘイ? カッコいい」
アマンディは、そう言ったが、名前のかっこよさなど恭平にはわからない。
スーツこそ着てはいないが、長袖のシャツにスラックス、革靴で舗装されていない道を歩くのが、苦痛になってきた。
「ねぇ、きみ。アマンディくん。あそこに木があるだろ?」
目の先にある少し大きな木を指さした。
「ありますね。疲れましたから、少し休みましょう。あ、ボクのことはお構いなく」
「······。」
疲れた足でなんとかその木の根っこに座り、幹に身体を預ける。
「ボク、ちょっと降りますね」
アマンディがそう言って、恭平の頭から落ちて···失敗。
「ふ、増えた?! 気のせい?」
(落ちて分裂したように見えたが···)
「「大丈夫ですよ。ボクたちは、分裂したり、合体も出来ますからー」」と分裂し増えたアマンディが同時に言って、合体した。
「キョウヘイさん!」
「はい」
いきなり名前を呼ばれ、足元にいるアマンディを見る。
「これ脱いで下さい。あとその中のも」
「これ? あぁ、靴?」
頭にハテナマークが浮かんだが、脱げ脱げとうるさく言うので、仕方なく靴と靴下を脱ぎ、裸足になった。
(疲れてはいるが、別段マメらしきものはないな)
「ボクたち、スライム族にはね、いろんな特殊効果の魔法が使えるんです。でも、まだボクは子供なんで···っと!」
「っ?!」
恭平の足に、アマンディが覆いかぶさるように乗ると、アマンディがだんだん溶けて···垂れて?
「ほうっ···。冷たくはないが、なんかスーッとする」
「でしょう? これボクらはみんな使えるんです。ヒーリング」
ヒーリングなら、恭平も知ってはいたが···
「凄い。疲れがどんどん抜けていく」
驚く恭平の言葉に、アマンディは笑う。
「キョウヘイ。若返った。頭、若返った」
???
「キョウヘイ、頭触る。頭触る」
足から離れたアマンディは、嬉しそうに周りを跳ねる。
(あ、普通だ)
ぽてんぽてんと周りを跳ねて···
「これ見るー!」と大きく伸びた!
「ん? なんか、どっかで···」
伸びたアマンディの身体?に写った姿は、恭平自身であったが···
「ん? え? あ、これ俺?!」
恭平は、頭に手をやると、髪の多さに驚いた。
「そういえば、ずっと乗ってた」
「はい。キョウヘイ、背が高い。上サミシイ」
「ま、まぁ、ありがとう」
薄くなってきたな、とは気にはしていたが···。
なんとなく、身体に溜まっていた疲れも消えた気がした。
「先は長いが、行って見るか!」
アマンディを頭に乗せると、恭平は再び歩きだした。
「さぁ! 行きましょう! アースリーへ! このまま真っ直ぐ行けば、皆に会えます!」
真っ直ぐな道を一歩一歩進んでいく恭平だったが、とにかく身体が軽い!
「おわっ! ひっ!」
気付いたら、走っていた。
「やぁめぇてぇーーーーーっ!! 千切れるぅーーーーっ!」の悲鳴に恭平は、立ち止まり、後ろを振り返った瞬間!
ヴァチィーーーーーンッ!!
派手な音がし、恭平の顔面にのび太アマンディが体当たり!
結果···
「伸びるんだ···」
「「「そうですよっ! だいたい、察してくれてもいいじゃないですか! もぉっ!」」」
小さく分裂したアマンディ同士が、段々と集まりだし元の大きさになっていくのを恭平は、不思議な眼差しで見て···
「ぶはっ! お前、面白いなぁ! ほんと、最高っ!」と声を荒げて笑った。
(すっげ。俺いま笑ってる。愁といる時、俺笑ってたっけ?)
「これで、大丈夫です。キョウヘイさん! もぉ走らないでくださいねっ!」とアマンディに念を押され、再び頭に···。
長い長い一本道!
特に何かに遭遇する事はなく、街らしきものが見えてきた。
が!
「なぁ、ほんとにここがアースリーなのか?」
「たぶん」
そこは、かつて街だったのか?とでも言えそうな位に荒んでいた。
「おーい! みんなぁ! アマンディだよー」
アマンディは、恭平の上から皆に声を掛けた。
「すみませーん!」
恭平も恭平で、片っ端から家のドアを開け、声を掛けるも中は暗く静まりかえっていた。
「おかしいなぁ。先生もみんなも何処に行っちゃったんだろう? 確かに、あそこにもアースリーって書いてあるのに」
街の入り口には、果物の街アースリーへようこそ!と書かれていた。
「おかしいなぁ。誰もいないってことないし。ほら、これわかるだろ?」
暖炉には、まだ温もりがあり、居住が確認されたが、人や動物の気配は全くといって無かったのが、不気味である。
「おーい。ワッツのみんなーっ!」
ワッツと言うのは、アマンディ達が住んでいる村の名前である。歩きながら、アマンディは自分の事を沢山話してくれた。
「おかしい」
「どうしよう? ボクが、ホワイティなんか追いかけなかったら···」
アマンディは、恭平の上で泣きそうな声になる。
「アマンディ。お前、ここ以外に知ってる街とかあるか? ここ西の街ってあっただろ?」
「んぅ、ボクあまりワッツから出ないから」
「困ったな」
恭平も困惑した顔で、パン屋の扉にもたれかかる。
「いくら探してもいないって···」
「先生の話だと、ここは大きな果物が沢山売られてるって話だったのに···」
ギシッ···
「言ってたな。みんなで、その果物農場に行くって」
「はい」
ギッ···
「困った···」
「は···いぃーーっ!!」
造りが古いのか、パン屋であろうその店の扉が、恭平の体重で壊れ、扉ごと店内に倒れた恭平とアマンディ。
土埃舞う薄暗い中で、ふと何かが動いたのを恭平は捉えた。
「待て、アマンディ。なんかいる」
(人か? 動物? にしては···)
息を止め、目を光らせると···
恭平は、静かに捉えた場所に向かって歩き···
「おいで。何もしないから。怖くて、隠れてたんだろ? きみ」
石窯の中に手を伸ばすと、その手に何かが掴まって···
「お願い。消さないで。お願い。許して」と小さな女の子が出てきた。すすだらけの耳の尖った女の子。
アマンディは、その女の子をエルフ族と言った。
「大丈夫。俺たち何もしないから。さ、涙を拭いて」
ポケットに入っていたハンカチを取り出そうとして、スマホがカタンと落ちた。
「いやっ! こないで! 消さないで!」
女の子は、恭平を突き飛ばすと再び石窯の中へ入って行き、中から扉を閉めた。
「「······。」」
恭平は、アマンディを床に下ろし、落としたスマホを見たが、何もわからなかった。
電源は入るが、電波は圏外。使えないスマホなのに···。
「大丈夫だから。怖がらせて、ごめん。ねぇ、そのままでもいいからさ。何があったのか聞かせてくれないかな? 街の人、みんないないんだけど···」
「おーい、そこの女の子。ボクたち、お友達を探してるんだよ。怖くないからさー。お願い!」
誰かが来て、見つかったら困るから、恭平は再び壊れた扉を誤魔化しつつはめ直した。
「困ったな」
「どうする? キョウヘイ」
この煤で汚れた女の子が、石窯から出てきたのは、恭平達が女の子を見つけて、暫くしてからだった。
しかも、お腹がすいて···。