第93話 神はサイコロを振らない(Tacit Understanding)
暗黙の了解
剣魔祭当日、俺は会場である国立闘技場へと来ていた。
そこには数多くの冒険者で溢れており、各々何処のグループに属するのかを確認している。
因みに俺はCグループだった。
参加者がぞろぞろと会場に集まると、冒険者ギルドの本部長ザンダが開会宣言を始めた。
「栄えある冒険者諸君!今年もこの季節がやって来た!己の実力と矜持を存分に奮って戦って貰いたい!今年は去年をも越える強者揃いだ!皆、楽しんで貰えると有難い!それでは今年の優勝賞品を発表する!この祭を制した唯一人に贈られる優勝賞品は・・・!」
へぇ、優勝賞品とかあんのか。
まぁあった方が人が集まるからな。
「・・・金貨100枚と、冒険者ランクの昇格権だァァァァ!!」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
・・・ん?
冒険者ランクの昇格権だと?
ふとザンダの方へ顔を向けると、ザンダはこちらを見てニヤリと笑った。
あ、これ俺を白金ランクに上げさせる為の奴だな。
色々と謀り過ぎだろ全く。
「ではこれより、ルーヴァー暦2000年記念剣魔祭の開会を宣言するぅぅぅ!」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」
盛り上がってんなぁ、そんなに気合いを入れて。
まぁ、勝てると良いな(暗黒微笑)。
「まずは全16グループによる剣戟の乱闘だ!まさに戦場を彷彿とされる混沌の戦い!ここで勝ち残った1名が本戦トーナメントへ出場だ!それでは、各グループに分かれ、各々準備されよ!」
ザンダがそう言い終わると、冒険者が各グループのステージへ向かって歩み出す。
俺もCグループのステージへと向かって行った。
~イーゼル、ルナ、カーシャside~
イーゼルとルナとカーシャは国立闘技場のVIP席へと案内されていた。
「イーゼルくん、本当に良かったの?こんな良い席で」
ルナは辺りを見渡す。
そこは普段は王族が使用する観覧席で、迚も広い上に会場を一望出来る特等席だった。
「うん、今回2人は僕の連れって事にしてあるからね。それに2人共、ゼロが戦う所良く見たいでしょ?」
「勿論ですわ!ゼロ様が華麗に蹂躙するお姿をこんなに良い席で拝見出来るなんて!私、感激ですわ!」
「「(華麗に、蹂躙・・・?)」」
カーシャの返答に一瞬戸惑ったイーゼルとルナだが、ルナが直ぐに話を切り替えた。
「所で、イーゼルくん。最初はどんな戦いなの?」
ルナは商家なので、剣魔祭と関わる事は殆ど無く、今回初めて剣魔祭を観覧するので、内容は知り得ていなかった。
「最初は16のグループに分かれて乱闘だね。乱闘と言っても剣しか使っちゃ駄目だけど。これは結構な人数がぐちゃぐちゃに戦い合うから、見てて面白いんだよね」
「そうなんだ。ゼロくん、大丈夫かな?皆ゼロくんよりも大きいし」
「心配ありませんわ!何と言ってもゼロ様なのですよ?負ける筈ありませんわ!」
「それは分かってるけど、あれだけの人数だと怪我しないか心配で」
「確かに、魔法の使用が禁じられているから、怪我したら終わりだね。まぁゼロに限って負けるなんて事は無いし大丈夫だよ」
ルナはゼロに絶対の信頼を寄せていながらも、手を合わせ祈るのだった。
尚、絶対神に祈ったので、結局は本人である。
~???side~
剣魔祭が行われるこの国立闘技場の内部、関係者以外立ち入り禁止の部屋に黒いフードを被った男が会場を眺めていた。
「愈々始まりましたね、剣魔祭。少し口を出させて貰ったお蔭でより早く彼が昇格しますね。私の要求を聞いて貰った本部長殿には感謝しかありませんね。フフフ、貴方が優勝する所、しっかりと目に焼き付けておきますね」
黒いフードを被った男は、暗い部屋からじっと、ゼロを眺めるのだった。
金貨100枚は日本円で1000万円です。本編で全く触れられてないけど、ゼロ曰く金には興味ないらしい。