第77話 神の使徒は即位する
唐突に場面を切り替える荒業。
思い付かなかったからしょうがないよね。
「って言う事があってさ」
「うん、だからと言って急に目の前に転移するのは止めてくれないか?」
俺は今回の件を報告する為に、国王であるイーゼルの元へやって来た。
「まぁ良いよ。それより、その合成獣、どうにも不穏だね」
合成獣という名前からも分かるように、自然に生まれた生物では無い。
つまり、何者かによって生み出された人工の生物という事だ。
しかし、リュケイア辺境に現れた緑の魔物をセイル達が合成獣と判断出来た事には理由があった。
―数十分前―
「「「合成獣」」」
セイル、レノ、アルツはあの緑の魔物は合成獣だと断定した。
合成獣か、神代では合成獣の話は聞かなかったな。
「3人はこの魔物が合成獣ってどうして分かったんだ?」
「え?そりゃあこんな生物、自然界にいないし」
「そういうのは、大体合成獣」
「別に珍しい事じゃないよね」
3人はさも当然かのように語る。
ギルドにも確認すると、合成獣自体は普通に居り、特段珍しい現象では無いと言う。
更に記録によれば、合成獣は昔から存在していたらしい。
さて、問題はこういった合成獣は大して強くなく、一般的な冒険者でも余裕で倒せるという事だ。
今回の緑の魔物は例外的に強かったが、冒険者にとって合成獣はあまり重大な事では無い為、逐一国に報告しなかった。
合成獣は何者かの存在によって生み出されたという情報が冒険者に把握されていないのだ。
―現在―
イーゼルが言ったように、本来合成獣の動きは不穏その物だ。
しかし、マンネリ化によって国家への報告が無い分、合成獣における対策が全くなっていない。
まぁこうして報告をしたからにはイーゼルによって多少なりとも・・・
「じゃあ合成獣対策は冒険者であるゼロに任せようかな」
「アッ、ハイ」
「それじゃ宜しく。それと、隣に居るのが話に出てきた神龍・・・様?」
「ああ、神龍ヴェレアスだ。この姿だと、ヴェレアス=グランディオになるのかな」
「貴様がこの国の王か。我はヴェレアス、絶対神様の忠実なる眷属である。我の事は気軽に敬語で話すが良い」
「ヴェレアス、一国の王が人間の姿をしている者に敬語使ったら不審だろ」
「そうか、すまぬ。では気軽に一般語で話すが良い」
「あ、うん。分かったよ。それとゼロ、忘れてないと思うけど、僕の即位式は貴族全員参加だからね。ちゃんと来てよ」
「(え?俺も参加すんの?)ああ、分かっている。そうだイーゼル、面白い物をあげよう。左手を出してくれ」
「?分かった」
イーゼルが左手を出すと、俺はイーゼルの手の甲にとある紋章を刻む。
「ゼロ、これは?」
「使徒紋章。神の使徒の紋章だ。なんかあった方が都合が良いから付けといた」
「えっと、これは喜んで良いのかな?」
「勿論。その代わりイーゼルは絶対神の使徒として国王に即位して貰う。歴代初の絶対神に認められた国王だ。態々神託まで使ってイーゼルを国王にしたんだ。これくらいしないとな」
「・・・つまり、教会の権威を削ごうって事?」
「あ、正解」
イーゼルが即位する際に、絶対神の神託により、使徒として即位すれば、その神託が降りてきていない教会の権威は一気に下がる。
枢機卿、もとい神祇卿は信仰の能力を持ったルベスシューター公爵家にしか務まらない上に、国民の殆どがこの教会の信者だ。
神託関係で嘘を言えば、国民は間違いなく教会側につき、イーゼルの邪魔をするだろう。
それを防ごうという俺の粋な計らいである。
「ま、まぁ取り敢えず僕は即位式で声高々と絶対神様の使徒として即位するって言えば良いのかな?」
「ああ、やり方は任せる。そう言えば任せるで思い出したが、イーゼルが兼任していた卿相の枠、あれ埋まったのか?」
「うん、1つを除いてちゃんと任命したよ」
「1つを除いて?」
「そう、''国家公安卿''だよ」
国家公安卿。
国内の治安維持及び警察権の統帥、そして、暗部の指揮等を担当する卿相だ。
更にこの権利をフルに使用すれば、法務卿、外務卿、軍務卿にまで口を出せる程の重要な卿相だ。
国家の安寧と秩序を守る為にはこのくらいの権利が無いと賄えないからな。
「こんな強力な権利、普通の貴族に与えたら濫用されそうで怖いんだよね。という訳でゼロ、国家公安卿やってくれないかなぁ(/ω・\)チラッ」
「男爵である俺がそんな重要なポストに就いたらヤバいだろ!」
「よし、じゃあゼロは公爵に陞爵・・・」
「やめろやめろ、それこそ濫用だろ。絶対王政でもあるまいし」
「冗談だよ。だけど国家公安卿への打診は本当だからね」
「分かったよ。じゃあ即位式は宜しく」
「了解」
その後即位式において、イーゼルの絶対神使徒宣言は、多大なインパクトを与えると共に、国民からの絶大な信頼を獲得する事になった。
もうそろそろ第2章を終わらせます(多分)