第73話 神は頼まれる
体調が良くない
リュケイア辺境。
周囲を森林に囲まれ、外に出る道路は王都を繋ぐ道一本のみ。
物流の中継になる事もなく、人の往来が殆ど無い為、ここはグランツ王国唯一の辺境とされている。
逆に周囲を森林に囲まれている為魔物は多く、冒険者の往来は多い為、冒険者ギルドは存在する。
俺達は≪冒険者ギルドグランツ王国リュケイア支部≫で依頼達成報告を終えると、セイルが魔物討伐の依頼を受けてきた。
「兄貴、この依頼受けましょう!何か新しい技とかも教えてください!」
俺は少し考えた後、セイル達にこう答えた。
「悪いが、俺はやる事があるから。それにセイル達はもう技を持っているじゃないか」
「え?もう持っている?」
セイル達3人は互いに顔を見合わせ困惑した表情を浮かべる。
「護衛中のあの戦闘、セイル達は''連携''という技で魔物を圧倒した。それ以上のスキルはいらない。俺が何か教えるよりも、3人で考え3人で行動した方がより強くなるだろう。その連携に俺は必要ない」
「「「連携・・・」」」
「ああ、俺がいるより3人でやった方が良い。3人で強くなれ」
「・・・分かりました兄貴!僕達、兄貴みたいに強くなります!」
「うん、セイルの言う通り、いつかゼロくんと渡り合えるようになる!」
「その時はまた、戦って欲しい」
「ああ、じゃあ頑張れよ」
「「「はい!」」」
そう言うと、セイル達は魔物討伐に向かった。
まぁ本当はこの後辺境伯に呼ばれていただけなんだが。
でもやっぱり人と一緒に行動するのは苦手だな、一人の方が良い。
神代の時からずっとそうだったからな。
はあ、さて辺境伯邸に向かうか。
~リュケイア辺境伯邸~
「お待ちしておりました、ゼロ=グランディオ男爵。辺境伯様の部屋へ案内します」
執事と思われる男性が門の前で一礼する。その執事に連れられ、俺は辺境伯の部屋へ案内された。
「待っておったぞ、ゼロ=グランディオ男爵。初めて会った時は気付かなかったぞ」
「まぁ貴族っぽい格好はしてないからな。それで俺を呼んだ理由は何だ?」
「実はグランディオ男爵に折り入って頼みがある」
「頼み?」
「ああ、実はうちの妻が不治の病を患わせてしまってな。それで国王陛下の即位式の準備があるにも関わらず戻ってきたのだ」
「そう言えばもうすぐだったな、即位式。それで不治の病とは?」
「ああ、こちらだ」
そう言うと辺境伯は隣の部屋に俺を案内し、眠っている辺境伯夫人を見せた。
「医者によると、回復魔法も効かないらしい。寧ろ悪化するばかり・・・グランディオ男爵、君の力で妻を救ってくれないか?」
「それは構わんが、何故俺を?」
「国王陛下にこの事を話したら、グランディオ男爵を頼れと言われたのだ」
「成程、まぁ任せろ」
俺は辺境伯夫人の胸に手を当てる。
・・・ああこれか。
確かにこれは回復魔法は効かないな。
回復魔法は人間が持つ自然治癒力を早める魔法で、破壊された細胞を再生するだけだ。
その細胞が冒された状態のまま回復魔法を使うと、冒された細胞が冒されたまま再生し、より悪化するといった感じたな。
つまりその細胞その物を除去すれば良い。
まぁ、癌だな。
現代の医学だとこれは不治の病なのか。
この技術退化はどうにかならんのか。
取り敢えず・・・
『完全消去』
俺は冒された細胞を消滅させる。
消滅した細胞の部分は人間の自然生成によって復活するので回復魔法は意味がない。
つまりこれからはこの人の回復力次第だな。
「取り敢えず体を冒す物は取り払った。だが完全に回復した訳ではない。暫くは絶対安静だが、もう命の心配はない」
「本当か!?有難う。この恩は一生忘れる事はない!本当に有難う!」
そう言うと、辺境伯は涙を流し、俺に感謝を告げる。
辺境伯はお礼として大量の金や宝物を俺に渡したいと言ったが、俺は断った。
その金で元気になった辺境伯夫人に何か買ってやれと言ったら、何て男爵は優しいんだとより感謝され、辺境伯年甲斐もなく号泣するのだった。
時代背景が中世なので癌なんて不治どころか死の病ですね。神には関係ないですが。