第6話 神は最初の授業を受ける(前編)
暫く駄弁っていると教師らしき人が教室に入ってきた。
「みんなおはよう、一年間このクラスの担任をするアスク=バイズィだ、よろしく!」
俺達の担任アスク=バイズィ先生はこの一年間の予定と今後の授業方針について説明し始めた。
・・・バイズィ?
どっかで聞いた名だな。
「なぁルナ、この先生の名前ってバイズィだよな?」
「ゼロくん知らないの?あの人結構有名な先生でね。統率の能力を持っていて、あの伝説の''統率神''様の子孫なんだよ!」
統率神ディ=バイズィ
神族軍第一軍隊隊長で確か参謀長も務めてたっけ?
「でもあの人人間だよな?」
「私も詳しくは知らないけど、神族の数が減少しすぎたらしく、人間との混血が増えたんだって」
「混血か・・・」
神族の子孫がいるって事は神族自体は絶滅したのだろうか?
歴史の文献が100年前までしかないからその前に何があったかは判らないな。
「よし!次は単位について説明するぞ!」
アスク先生の割と大きな声によって俺の思考が途切れた。
無意識に統率の能力が発動したのか。
「一年はこのゲールノーア学園内での座学や鍛練だ!一般的な知識や技術を鍛えるぞ!後期になってからは貴族と商家で科目選択があるから気をつけろよ!あぁ、そう言えばこのクラスには''平民''がいたなぁ!」
こっち見んな。
そう言う事言うから面倒な事になるんだろうが。
「まぁそんな事はどうでもいい!二年では貴族は冒険者として、商家は商人として社会に出てもらう!貴族とはいえいざとなったときの社会適応力は非常に重要だ!臆せず臨んでほしい!」
へぇ、貴族でも冒険者として活動するのか。
というか社会の治安悪化ってこれが原因なのでは?
「そして三年はこの学園に戻って総仕上げだ!これからに必要なあらゆる能力を極めるぞ!これで説明は終了だ!授業は明日からだから今日はもう帰っていいぞ!それと平民の君!このあと話があるから残るように!」
「え?あ、はい」
は?
何で俺だけ?
周りから嘲笑の声が聴こえる。
笑い声やら侮蔑の目やら、平民とういうのはここまで地に堕ちた存在なのか。
俺の父が言っていた地獄というのはこう言うことか。
これは俺が望んだ世界ではない。
旧世界秩序である人間と魔族との均衡。
神族は絶え、魔族も絶え・・・たのかどうかは知らんが、人間が余りにも長い時間平和な時を過ごした故、力を持った貴族が傲慢になったと言うところかな。
そう考えているとルナが話しかけてきた。
「じゃあゼロくん、また明日ね!」
「あぁ、また明日」
そう言うとルナは教室から出ていった。
ルナの家はこの王都にあるが俺の家はここから遠いので寮暮らしだ。
まぁそもそも大概の貴族、商家は王都暮らしなので寮暮らしの人は殆どいないが。
「それで先生、何故俺を残したんだ?」
「大した理由はない!だが君は平民だ!これから辛いだろうがこの学園に入学したからにはしっかり頑張れよ!と言いたかっただけだ!」
ハッハッハと笑いながら先生は言った。
俺が若干唖然としていると続けてこう言った。
「いやな、実は私ももとは平民出身なんだ!だから君の身を案じてな!平民は酷いぞ、扱いが奴隷並だ!私は統率神の子孫と言うことで特に何も言われなかったけどな、君は確か能力を持っていないらしいじゃないか!これから大変だが、私は君の味方だ!困った事があったら何でも言うんだぞ!ハッハッハッハッハッ」
そう言うと先生は教室から去っていった。
俺は会釈して先生を見送った。
無意識の統率発動。
彼が平民ながら優遇されたのは家系もあるが、主にそれが理由だろう。
彼の真意は分からんが、味方と言ってくれたのは有難いな。
周りはほぼ敵みたいなもんだし。
流石は我が''配下''の子孫だな。
どこぞの五英傑とは訳が違うな。
そう考えながら俺も教室を後にした。