第61話 神は先輩を指導する
ゼロが本気を出すときは来るのだろうか?
「ゼロさん!僕を弟子にしてくださいいいいい!!」
セイルは土下座して俺への弟子入りを懇願する。
「待て待て、弟子を取るとか性分じゃないし、まず土下座をやめろ」
「はい、ゼロさん!」
セイルは土下座の状態から瞬時に立ち上がり、俺に向かって敬礼した。
「敬礼すな。あと俺は年下なんだからさん付けもやめてくれ」
「分かりました、兄貴!」
いやだから年下だって。
ほら、レノとアルツもこの変り身に唖然としているじゃないか。
はぁ、もういいや。
「そもそも俺は弟子なんか取るつもりはないし、適当に何か教える事ぐらいしか出来ないぞ」
「構いません!兄貴の技術を僕に教えてくださいいいい!!」
セイルは腰を90°に曲げ懇願する。
まぁセイルの剣技はまだ未熟だし、教える程度なら別にいいか。
「分かったから頭を上げろ。レノとアルツもどうだ?魔法も槍術も一通りは教えられるが」
「え?本当?じゃあお願いします!」
「槍術、俺も強くなりたい。頼む」
「ああ、任せろ。・・・取りあえずセイルが頼んだ飯を片付けようか」
こうして食堂で飯を食べた後、3人を指導する事になった。
俺達は俺がホーライ草を取り尽くした一帯、通称ホーライ高原にやって来た。
「それにしても、まさかゼロくんが貴族だったとはね」
「元・平民だけどな。爵位だって最下の名誉爵だし」
「それでも貴族、俺達にとっては憧れ」
「そうだよ兄貴!それで一体どんな技を教えてくれるんだ?」
セイル、レノ、アルツは目をキラキラさせながらこちらを覗く。
「いや、そんな大した事はしない。そもそも技を使う前に実力が追い付いていない。取り敢えず模擬戦として俺が相手をするから、俺に傷一つ付けてみろ」
「傷一つ?そんなの簡単だよ!」
「いくら貴族でも私達を舐めすぎじゃない?」
「余裕、直ぐに終わる」
「じゃあ、やろうか」
30分後
「ハァ、ハァ、全然当たらない」
「魔法も駄目、ダメージを与えられる気がしないわ」
「直ぐに躱される、これが実力の差」
3人は疲れきって地面に座り込む。
俺も大分手を抜いてやったが、能力や魔力が無いだけでここまで差があるとは思わなかったな。
やっぱり能力を持つ貴族や商家は特別なんだな、と。
いや、逆だな。
能力を持っていたからこそ貴族や商家になれたんだったな。
結局血の濃さが重要視されるんだよな。
取り敢えず3人にある程度のアドバイスはするか。
「セイルとアルツは狙いが分かりやすい。はっきり言って避けるのが滅茶苦茶楽だ。知能のある魔物相手だったら恐らく苦戦するだろうな。2人はフェイントを意識した方が戦いやすいと思うぞ。レノは魔道具で得た魔力の魔法への変換効率が低い。レノは炎魔法を使っていたが、恐らくレノの相性は炎属性ではなく、光属性だ。今度からは光魔法を使う練習をした方が良いかもしれないな。とまぁこんな感じだ」
「そうだったんだ。僕達だけじゃ気づけなかったよ」
「そうね。私の相性が光属性だなんて。そもそも魔道具が無いと魔法も発動出来ないのに」
「人間には元来魔力は存在する。だが、神の血が薄い人間はその魔力を放出する力が弱い。それを助けるのが魔道具であって、誰にでも魔法属性はあるからな」
「え?という事は僕にも魔法が・・・」
「セイル、剣術もまだまだなのに他の物に手を出すな。器用貧乏」
「アルツぅ、夢を壊さないでくれぇ!」
「事実」
「辛辣!」
「まぁ具体的な技とかは、そうだな、銀ランクに昇格してからだな」
「おお!それじゃあ銀昇格目指して頑張るぞ!」
「「おー!」」
「ん、頑張れ」
「あれ?ゼロくんは銀目指さないの?」
「いや、これから1、2ヶ月は暫く冒険者はやらないかな」
「え?何で!?」
「まぁ、色々あってさ。ほら、一応俺は学生だし、あっちにも偶には顔を出さないと」
「ゲールノーア学園かぁ、良いなぁ」
「(まぁ、本当の理由は別にあるけどな)」
ゼロは王都の方を見ながら険しい表情をしていた。
次回から本命の建国祭の話が始まります。
伏線多用不可避。