第53話 神は初めての依頼を受ける
設定として現代語と神代語が登場します。
現代語は日本語、神代語は英語で表記します。
文法や文字も同じものだと思ってくれればいいです。
神代語は現代語と違って普及はしてないですが、ある程度は伝わっているという設定なので、現代でもどちらも使われます。
俺は冒険者カードを受け取った。
鉄ランクだから鉄の素材で出来ており、そのカードには俺の名前と爵位、そして現代語で絶対、神代語でAbsoluteと書かれている。
鉄の素材だから錆びないかなと思ったが、魔法でコーティングしてあるようだった。
そんな事を考えつつ、俺は早速依頼を受ける事にした。
受付に戻るとさっきの女性が話しかけてきた。
「ゼロ様、改めて自己紹介しますね。私はゼロ様だけを担当させて頂くエルカです。宜しくお願いしますね」
エルカと名乗るその女性は屈託のない笑顔で、そう挨拶する。
いつの間にか様づけになってるし、何か他の冒険者や他の受付の女性から羨ましい、妬ましいとか聞こえるんだけど。
「つまりは俺専属って事?」
「まあそう言う事ですね!それで早速依頼ですか?」
「ああ、そうだな。何か良いのあるか?」
「ゼロ様はまだ鉄ランクですので、採集や運搬の依頼しかありませんが。あっ、これはどうですか?」
そう言うとエルカは一枚の紙を差し出す。
「ホーライ草の採集クエスト?」
「はい!ホーライ草は万能霊薬の材料になるんですが、現在枯渇ぎみで・・・数の規定はないので、採れるだけ採って貰えると有り難いです。採集した数は冒険者カードに記録されるので直ぐに確認出来ますから」
「それは何処で採れるんだ?」
「王都から南に行って直ぐの高原に沢山ありますよ」
「分かった。早速行ってこよう」
「はい、受注を承りました。行ってらっしゃいませ、ゼロ様!」
エルカに見送られながら冒険者ギルドを後にする。
そして王都の南門を抜け、目的地である高原に辿り着いた。
「さて、確かにここら辺にはホーライ草が大量になっているな」
ホーライ草は万能霊薬の材料として重宝されているが、傷を付けると効能が低くなってしまうので、採集する時は慎重に採らなければならない。
まぁ俺は面倒なんで傷つけない程度に纏めて刈るんだけどね。
「よし、ここら辺で良いかな。『風の大鎌』」
風魔法である風の大鎌を使い、次々とホーライ草を採集していく。
風の大鎌の効果範囲は半径20m、つまり400π㎡もの範囲を一気に刈っていくので、ものの数分で一帯のホーライ草を採る事が出来た。
「まぁ、こんなもんかな。んで、集めたホーライ草は異空間収納に入れてっと。ん?」
奇妙な声を聞いて後ろを振り向くと、そこには数匹の魔物がこちらを睨んでいた。
「魔物か、転生してから初めて見たな。アレは狼の魔物かな?まぁ襲って来ないし放置で・・・」
ギャァギャァギャァギャァ
けたたましい鳴き声とともに狼の魔物が俺に襲いかかってきた。
「全く、素直に引き下がれば良いものを。『風の大鎌』」
俺は狼の魔物に向かって風魔法を放つ。
採集に使ったとはいえ殺傷能力がないとは言っていないからな。
魔法が直撃し狼の魔物たちは次々と絶命する。
ちゃんと心臓を狙ったので勿論即死だ。
とはいえこの魔物どうしようか。
確か冒険者ギルドは魔物の買い取りも行っているって書いてあったし、取りあえず異空間収納に入れて持って帰るか。
ギ、ャ、ァ
あれ?まだ残っていたのか?
俺が後ろを振り向くと、そこには双頭の狼が俺を捕食しようと、涎を垂らして近付いていた。
「オルトロスか、久しぶりに見たなぁ。まぁだからと言って捕食される気は無いがな」
俺は鉄剣クロガネを取り出し、オルトロスに刃を向ける。
ギィァャァアャア!!!
オルトロスが俺に向かって突進してくる。
俺はオルトロスの突進を避ける。
そしてその序でに双頭の首を切り刻む。
すると、オルトロスの首が吹っ飛ぶとともに鉄剣クロガネの刃が折れてしまった。
「ヤベッ、強化魔法掛けるの忘れてたわ。んー、まぁただの鉄の剣だった訳だし別に良いか」
俺は折れた剣と絶命したオルトロスを異空間収納に仕舞い、その高原を後にした。
そして、冒険者ギルドに戻り、依頼達成を伝えた。
「あっ、ゼロ様!早かったですね、まだ一時間しか経ってませんよ?」
「粗方採り尽くしたしな。はい、冒険者カード」
「採り尽くしたって・・・ええ!?2351本!?」
エルカは目を丸くして冒険者カードに記録された数を見る。
エルカの大声に周りの冒険者もざわめき始める。
「な?言っただろ?粗方採り尽くしたって」
「い、一体この短時間でどうやって?」
「え?魔法でちょちょっと」
「そんな高等技術・・・いえ、ゼロ様だからこそですね!数が数なので後程倉庫に案内しますので持っていってください・・・ってアレ?ゼロ様、肝心のホーライ草は何処にあるんですか?」
「何処って異空間収納だが・・・」
あっ、しまった。
「ええ!?収納魔法使えるんですか!?消失魔法ですよね!?」
エルカがまた大声を出すので、思いっきり周りに聞こえてしまった。
ほら、あの冒険者なんか驚いて口が開きっぱなしになってるぞ。
「ああ、まぁ、使えるから使ってる」
「凄いですよ、ゼロ様!収納魔法なんて魔道具以外で初めてです!」
「ん?魔道具?そんな物があるのか?」
「はい、魔法鞄と言って、入る量は少ないですが収納魔法が掛けられている魔道具です。神代の技術は凄いですねぇ!それよりもゼロ様の方が凄いですが!」
「そうなのか。まぁ取りあえず依頼達成の方を」
「あっはい、分かりました。ホーライ草が2351本なので23万5100リコルです。ちょっと大金ですので少しお待ちを・・・ってアレ?冒険者カードに魔物討伐の履歴がありますね。ゼロ様、魔物討伐したんですか?」
「ああ、採集中に襲って来たんでサクッと倒してきた。一応死体は異空間収納に入っているが、買い取りも出来るんだっけ?」
「はい!ですが鉄クラスで魔物討伐したのはゼロ様が初めてですよ!そもそも魔物討伐の依頼は銅クラスからですので。ゼロ様だから出来る芸当ですね!早速確認します。えっーとウルフ5体に・・・オ、オルトロスぅ!!?」
エルカが三度大声を出した。
その声に反応するように周りの冒険者が囁き始めた。
「オルトロスってA級の?」
「あんな子供が本当に倒したの?」
何だ?A級って。
「ゼロ様!本当にオルトロスを討伐したんですか!?」
「ああ、異空間収納に入ってるから、今から出そうか?」
「は、はいお願いします」
俺は異空間収納からオルトロスの死体を出した。
受付嬢のエルカ、短時間に三回も叫んだせいで喉を痛める。