第96話 神はサイコロを振らない(Softly Control Stiffness)
柔よく剛を制す
準々決勝の相手、メル=リムラン。
今大会で唯一本戦まで勝ち上がって来た女子。
男にも引けを取らない高い身体能力を持ち、その身体の柔軟さを活かし、数々の敵を屠って来た。
柔よく剛を制すという言葉がある。
それは、柔軟性は堅固な物に勝つ事が出来るという意味で、正に彼女を体現した言葉だろう。
しかし、戦闘においては身体の柔軟さよりも、頭の柔軟さが重要となる。
果たして、剛はどちらなのか?
「メル=リムラン、ゼロ=グランディオ、両者前へ!」
審判の男がそう指示を出し、俺はステージの前へと向かった。
俺と目が合ったメルは舌舐めずりをしながら前へ出て来る。
「それでは準々決勝、始め!」
審判の合図と共にメルが動き出した。
「こんな可愛い子を痛め付けるのは気が進まないわ~。でもごめんなさいね、そういう試合だから♡」
メルはそう言うと、前の試合と同じ新体操のような動きで俺に接近して来る。
俺が前へと剣を振ると、予想通り柔軟な動きで俺の剣を躱す。
「駄目よ~そんな遅い剣じゃ私には届かないわ。それじゃあバイバイ」
メルは俺の腹を狙って斬り掛かる。
実はこの剣魔祭、1つ重要な欠陥がある。
それは殺せない事だ。
俺が前の試合で見せたように、対人戦では首を狙うのが一番良い。
メルの体勢を見ても、首が一番狙いやすい。
だが首を斬っては殺人となり反則負けする。
必然的に即死にならない腹辺りを斬る事しか出来ない。
だが、その動きが一瞬の隙を生む。
どんな戦場、どんな武器であっても、そこに大差が無い限り、圧倒的有利なのは防御側だ。
ましてやメルの動きは単調で、完全に読む事が出来る。
この状況、メルは自分が有利だと思っているが、本当に有利なのは、俺の方だ。
メルの刃が俺に当たる前に、後ろに数歩下がる。
メルの動きで剣を振っても、数歩下がれば当たらないのだ。
「!?」
メルは避けられた事に動揺したが、直ぐに体勢を立て直そうとした。
だが、その数秒は俺にとって十分すぎる時間だった。
俺はメルが剣を持っている腕を切断した。
夥しい血が吹き出ると同時に、メルは降伏宣言し、回復魔法によってメルの腕が元に戻った。
斯くして、準々決勝は当然俺の勝利となった。
試合終了後、休憩の時間があるが、その時にメルが話し掛けてきた。
「まさかこの私がこんな可愛い子に負けるとはねー。・・・どうやって避けたの?自慢じゃないけど、私のあの動きを見切れる人なんて早々いないわよ?」
俺からしたらスローに見る事が出来るので、どれだけ素早く動いたって余裕で見切れるんだよな。
さて、普通に答えようかな。
「俺の動体視力が良いからっていう理由もあるが、やっぱり動きが単調すぎる。その動き、第1試合でもやっていただろ?一度見たら流石に分かる」
「えぇ、分からないわよ普通は」
「後は、避けられる事を想定していなかったのが問題だな。ついでに言うと俺の容姿に油断していたってのもあるか」
「むー、こんな可愛い子がそんなに強いなんて思わないでしょ」
まぁ、そうだな。
しかしいい加減この姿だと舐められて終わりだな。
さっさと成長しろよこの体。
あと可愛い言うな。
「でも、私に勝ったからには優勝を目指しなさいよ。応援してるからね♡」
メルは俺にウィンクすると、ステージを後にした。
さて、次は準決勝だな。
相手は誰かな・・・セイルじゃん。
ここまで勝ち上がって来たのか。
あの中途半端な剣筋だったセイルがなぁ。
まぁ俺のアドバイスを受けて真面目に努力していたからな。
セイルがどこまでやれるか楽しみにしていよう。
メルもセイルも年上です。
あとゼロは見たまんまの子供です。
見た目は子供、頭脳は大人、その名m