新天地にてその1
少し前に投稿したお話、筆者の技術的に無理そうだったので改めてゆったりとした感じに書き直しました!
前回ブクマしてくれた方ごめんなさい!
「んー……もう朝かぁ」
テントの布を貫通して照らす太陽光の明るさで目が覚めた。
上体を起こしたのちしばらく経ってから、メインパネルをめくって外に出る。途端に香る土と草の匂い。眩しい光に目を細めながら両腕を上に突き上げてぐーっ、と伸びをする。リフレッシュする感覚が気持ちよくてついあくびを漏らしてしまう。
「ほら柚希、朝だぞ起きろ」
再びテントの中、まだ起きる気配もなく熟睡している妹を前後に揺する。一拍の間のあとに目覚める妹。
「んー……何?」
「もう朝だぞ」
「えー……もうちょっと寝させて……」
「だめでーす。早くいつもの狩り場行きたいから。すぐ行かないと魔物少なくなっちゃうぞ。それに顔も洗いたいし」
「んー……分かった。おはようお兄ちゃん……」
「ああ、おはよう」
寝ぼけまなこを右手で擦りながら、延びきった返事をする妹。寝てる間にゴロゴロしたのだろうか、蒼がかったショートカットの黒髪はボサボサで毛先がくるっとカールしてしまっている。
「みーず」
気の抜けた言葉と共に、用意しておいた木製の桶に魔法で水を満たす柚希。元の世界ではあり得ないであるが、この箱庭に来て今日で10日目。ここでの暮らしに何となく慣れてきた気がする。
俺も桶に入った水に手をかざし、魔法を使って温める。朝起きてから温めのお湯で顔を洗うとすごく気持ちいいのだ。
「朝ごはんは何食べんの?」
「パンにしよっかな」
素っ気なく答える妹。だいぶ使うことの多いタブレット端末を操作し『ショップ』のアプリを開いてから、食料品のカテゴリーをスクロールして朝ごはんを選ぶ。俺も実物の写真を見ながらどれを食べようか考える。
この『ショップ』というアプリ、ポイントを消費すれば『ショップ』にあるものは全て買うことができる優れ機能なのだ。しかも購入したものはちょっとした包装をされてすぐその場に現れる。
地球だと通信販売というものがあったが、それみたいに業者を介して宅配されるのではなく直接手元に出現するという、その意味でも超優秀な機能。
ちなみに『ショップ』を使わなかった日は今までの10日間で一度もない。
「じゃあ俺もパンにしよっかな」
ピザトーストの欄をタップし、購入画面でYESを押す。端末上のポイントが自動で引き落としされると同時に、胡座をかいてグランドシートに座る俺の目の前に熱々のピザトーストが現れる。湯気もたっていてトロリとしたチーズがとても美味しそうである。
「はー、うめぇ」
もっちりとした生地を咀嚼しながら思わず呟く。間違いなくおいしい。うまーい!!
『ショップ』で買える食料品も全部把握しきれないほどの種類や量があり、ポイントに余裕のある今、ごはんに飽きることのない生活を送ることができている。
最近だと魔物の肉がプレイヤーの間で流通し始めていて、そちらの方が『ショップ』で買うよりも安かったりするから昼や夜はお店で食べることも多くなった。
箱庭の広場外縁の草原で手には入る兎や鶏の肉に、『ショップ』で購入した調味料や火属性魔法を用いて調味した方が、『ショップ』の食料品よりも安くなるっていう寸法だそうだ。
「さて、そろそろ行きますか」
「だね」
食事を終えて準備をしてからテントの外に出ると、暫定的な道の両左右に、同じ色かたちのテントが何となしに固まってペグ打ちされている風景が見える。それも俺たちがいる近くだけではなく、道に沿って長い距離で形成されている。確か箱庭の中心である中央広場に繋がってた気がする。
これから二人で何処に行くのかというと、中央広場からみて北東の方角にある草原地帯である。
そこに何があるか、まあ何もない。
足首くらいの丈の雑草が一面にばーっ、と生えている。
では何が目的なのか。
そこにいる魔物を狩るためだ。
魔物といっても見た目はどう見ても普通の豚や羊、小さいものでいえば兎や鶏といったところであり、それらを絶命させてから解体すると、心臓部に親指の第一関節くらいの大きさの魔石を見つけることができるのだ。
そしてこれをポイントに交換する。
兎や鶏だとだいたい500pt前後だろうか。
豚や羊、さらに馬くらいになると5000ptを越えて10000ptに届くくらいのポイントに交換できる。もちろん同じ種の中でも個体の大きさによって、得られるポイントの量に差は出てくるが。
「鶏あたりがたくさん居てくれると助かるんだけど」
「それなー。鶏だったらちょっと追っかけるだけで済むからね」
左隣を歩いている柚希がジト目がちの眼を馳せるようにして、遠くを見ながらそう答えた。
地平線いっぱいに広がる草原のずっと奥には山が幾つか連なっているのが見える。
魔物の中でも一番狩りやすいのが鶏だ。なんといっても攻撃してこない。
他の魔物なら、こちらが素振りをみせるだけで体当たりをかまそうと一目散に突っ込んでくるが、鶏はただ逃げるだけ。魔物は基本狂暴な性格であるはずなのに、そいつだけはまさにチキンなのだ。今ちょっと上手いこと言った気がする。
それはさておき、魔物を狩るといってもやはり命を奪うためには何かしらの攻撃手段を持たなきゃいけないわけで。
「しゃきーん!!」
鉄の剣!!
これさえあれば何でもできる!
……そう思っていた頃が俺にもありました。
本当に怖かった。
あれは初日の時の話だ。さりげない非日常に興奮していたからだろうか、ショップで買った剣を右手に持って、そのままのテンションで魔物に突っ込んでしまったときのこと。
「獲物発見!いくぜぇ!!」
「えっ、ちょっと待って」
妹の制止の声も聞かず、前方の草むらの中に丸まってる兎を見据え、剣を片手に走り込む。
彼我の距離が5メートルちょいに達した頃、急にヤツがこちら側に突進してきたのだ。
いやもうものすごく驚きましたわ。
なんの予備動作もなく駆け出した兎。
まさか迎え撃たれる形になると思っていなかった俺。
シュパッッ!!
兎は勢いそのまま一気に俺の懐に入りこんだ。
予想外の敵の動きに俺は目を見開く。
対応を迫られる俺。
しかし、両手用の剣を慢心して片手で持っていた俺は、有効な対応をなに一つとることができない!!
そしてそのまま両者は交差した。
ドンッッッ!!
ヤツの突進を特に鍛え上げてもいない俺の腹筋が迎え撃った!!
結果。脇腹にクリティカルヒット。
一瞬の意識の明滅、鈍痛で剣を手放してしまうと共に、俺の上半身は慣性の勢いのまま、前方方向に頭から地面へ打ち付けられた。
頬にさらさらと雑草が当たる感触。
やや間があってから平衡感覚が復活したあと、手をついて上体をおこすと、勝ち誇ったような表情でこちらを鼻で笑う兎が、眩しい太陽をバックに目と鼻の先で二足立ちになって佇んでいた。
くっ……!!
自らよりだいぶ小さい兎に物理勝負で膝をつかされる体験。
あの屈辱は一生忘れんぞ……
思い出すだけで苦々しい気持ちになる。
忌々しいヤツめ。
「お兄、顔がキモい」
「……ほっとけ」
ちなみにその兎は妹が速攻で倒しました。
首に剣を一振り。さくっ。
ちくせう。
ヒロインが登場するまでは毎日を投稿するつもりです!
是非読んでいってください!笑