第3話、おでかけ
私はあの日以来、藍とは普通に接していた。特に近づくわけでもなく、あくまで普通の先生の立ち位置として接していた。
数週間過ぎた日の休日、私は商店街へと来ていた。歩いて20分くらいとすぐ来ることができるので非常に便利だ。
休日なので素のままで自由気ままに過ごす。それが私らしい休日だ。
藍に偶然会えれば嬉しい。あの時連絡先を聞かなかったことに少し後悔した。
なんとなく来てみたものの思ったより気分が乗らない。適当にお散歩して帰ろう。
「姫、どうしたの?元気ないじゃん」
急に話しかけられた。私は驚いて顔をあげると藍が目の前にいた。なんで気づかなかったのだろうか。
「藍?」
「えへへっ、ここで会えるってなんか嬉しいね」
そう言って藍は近づいてくると手を伸ばしてきて、そのまま私の胸を触った。
「やっぱり大きいな、姫のボリュームってすごいよね」
「ひゃぁ、もうしょうがないなぁ」
やられてばかりでは何か悔しい、私は藍にやり返そうと手を伸ばした。しかしそれは叶わなかった。
「ってか藍は逆に成長しなさすぎよね、まぁなくても可愛いんだけどさ」
その胸は小さすぎて、もむほどのボリュームはなかった。ただ藍は背が高くアイドルみたいな感じに可愛い
「ねぇどうしたら姫みたいに大きくなれるの?私も顔をうずめられるくらいになりたいな」
藍はそんなことを言いながら、私の胸に顔をうずめてきた。胸の中で幸せになっている藍を見るとこちらまで幸せな気分になりそうだ。
藍は小さいからいいと言おうとしたが、それではただの嫌味に聞こえてしまうだろう
私はそっと藍の頭をなでて優しく声をかけた。
「藍は背が高いからね、栄養が胸に行かなかったんじゃない?」
私の胸でむくれる、それを見てると面白い。コロコロ表情が変わるので見ていて飽きない。
そんなに楽しいものかな、藍に求められるのも快感になってゆく。
「そうだ、今日はスイーツ食べに行こう、行きたい店あったの」
そう言って私は藍の手を引いた。学校では頼られる藍、私の前では甘えん坊でいてほしい、そんな風に思っていた。
「うん、楽しみだね」
こうして楽しい休日が始まった。私たちは喫茶店についた。
藍の手がするりと私の手から抜けていった。当然といえば当然だがなぜか少し寂しさを覚えた。
本当はいつまでも握っていたい。手汗でべたついても、共有できるならうれしい。
でもさすがに向かい合って座るのに繋いでるのはおかしいもんね。私たちは見つめあって座った。
藍は抹茶パフェ、私は苺パフェを頼んだ。運ばれてくるパフェに、テンションが上がった。
「さっそくいただきます」
そういうとさっそく一口食べる。甘い、苺の甘味を生クリームが引き立てる。
いつも以上においしく感じるのは藍と一緒だからだと思う。そう思うとお決まりのやつをやらずにはいられなかった。
私は何も言わずにスプーンにパフェを乗せて藍に差し出した。藍は髪を抑えながら少し身を乗り出した。
「んっ、苺もおいしいね、ほら姫もあ~んして」
藍は食べるとさらに笑顔に、満足した表情になった。私は口を開けたが藍がなかなか入れてくれない。
藍は笑みを浮かべるとスプーンの先に乗せたものを自分で食べた。
「えっ、くれないの?」
なんか悔しかった。普通に食べあってみたかっただけなのに、なんか悔しい。
藍はそんな私の気も知らずもう一口、自分の口にパフェを運んだ。
「あげるなんて言ってないし」
「うぅいじわる」
藍はハムスターのごとく、パフェを頬張り立ち上がった。そして私の頬を両手で包み込んだ、何だろうと思っていると藍は近寄ってきて、顔を寄せてくる。
「んっ、んっ~~~」
突然の藍の思いがけない行動に、じたばたしてしまう。藍とほぼゼロ距離と言えるくらいに接近した。
頬に感じる手の冷たさ、唇の中の熱さ、そしてそれと矛盾したかのように冷たいものが流れてきた。唇が通じ合い2人で一緒のアイスを共有してる。こんな状態でアイスを味わえなんて無理な話だ。
アイスだけでなく藍の液体も絡み合ってる。なんでこの子はこんなにも大胆なんだろう。
こんな甘いひと時を過ごせるなんて幸せすぎる。
「えへへ、おいしいよね?」
藍はすっと離れると笑顔でそう言ってきた。私は静かにうなずいた。
さっきまで藍が触れていた唇に触ると、藍のぬくもりを感じた。私にとって初めてのドキドキだった。
キスをするのは2度目、同意を得ずに強引に姫を奪っていく。それはまるで王子様のようだった。
「藍ってさキス好きなの?」
少し落ち着きを取り戻しそんなことを聞いてみた。
「姫がいけないんだよ?前あんなことするから、仕返し」
藍はそういうと私の耳元に唇を寄せた。私はそのまま耳を噛まれるのかと思うと体が硬直した。
一度ではなく何度も、一度離しては短い呼吸をして再び吸い付いてくる。
アイスよりもとろける熱い気持ちを感じていた。
「こんな気持ち、初めてなんだよ」
そう言われた瞬間、ゾクゾクと体の中に電流が走った。この子はいったい何を言うんだろうか。
藍の言葉1つ1つが私に確かなダメージを与えていった。すごい嬉しくて、すごい抱きしめたくなった。
しかも可愛いとか言われるなんて、初めてのキスを奪われてよかったと心から思えた。
「藍、ありがとう、特別にここは私のおごりね」
「え?いいの?ちょっと高いんじゃない」
「大丈夫よ、大人なんだし」
そう言って代金を支払うと私はまた藍の手を握った。隣を歩いてるのが楽しい。藍に甘えられるのが好きだったけど、責められるのも悪くない。
でも今はこうして腕にしがみついていたい。幸せと思えるほど、強く強く抱きしめたい。
「ちょっとぉ、歩きにくいんだけど?」
「でも嫌いじゃないでしょ?むしろ好きなんでしょ?」
そう返すと、笑顔でうんと優しく頷いた。私は握っていた手をより強く握った。
それが私の気持ちだよと言わんばかりに強く握った。
「そういえば姫に聞きたかった」
「ん?何かな?」
「アドレス、教えてよ」
それ、私も聞きたかった。というか私が先に聞きたかった。どちらにせよ交換できたので良しとしよう。
私は携帯を取り出すとQRコードをかざした。
「これでいつでも繋がれるね」
「うん、これから夜もお世話になるね」
「姫?その言い方なんかやらしいよ?」
私たちは再び手をつなぐと、そして長いようで短い帰り道を共に歩いた。