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「……まぁ、藺連、帰ってたのね。目にする度に大きくなる気がするわ」
そう嬉しそうに藺連に触れる。白くたおやかで細い指先が、そっと壊れものを触れるかのように藺連の額に触れて。藺連の前髪がさらっと空気を含むように揺れた。
会う度に儚さが増すようで、藺連は、少し不安になる。消え入りそうな雰囲気は、いつ目にしても藺連の何かを揺らして。
……この頃は、殆ど姉さんに会うこともかなわなくて、いつしか藺連は、姉さんを意識しすぎてか上手く接することが出来なくなってしまっていた。触れられると嬉しい筈なのに、身体はこわばり、距離を取ろうとしてしまう。
―-それに
……この頃になると、姉さんは、あまり独りではなくなってしまっていたのも、ゆっくりと頻繁に会えない原因の一つだった。
何かを話しかけようとした藺連が、言葉と手を止める。姉さんが現れた奥の部屋、柱で見えない位置にたたずんでいたのだろう着流しの男性がすっ、と姉さんと藺連の間を遮るようにして現れて。
「……湧水伯父さん……」
姉さんは、すっ、と嬉しそうだった表情を消して、顔を俯け、藺連は、思わずその男性の名を口にする。
湧水伯父さんは、母の兄にあたる人で……藺連自身、あまり良い印象を抱いては居ない人だった。元々、母もあまり好きではなく、母の兄であるこの方も、どこか冷たい印象を感じあまり関わりたくはない人物だと肌で感じている。……そのような人物が、……実家に帰省する度に姉さんの傍にべったりであることに不快感と大きな違和感を感じていた。