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「藺連、もう一度言うが、私は、お前に才が無いとは思ってはいないよ。……ただ、どうもね、私は、解るんだよ。気持ちがこもっていないものをみれば、そこに作り手の思いがないことを。……私は、人形馬鹿な所があってね、私がお前ぐらいの頃には、人形に命を吹き込もうと夢中だった。のめり込む世界を知っている。……だから、お前が上の空だった様子を一度目にしたことがあるのだけれど……、お前はずっと何かに夢中になっていたね、そう、窓の外をじっと見つめて動いていなかった」
藺連は、涙を拭いながら、父さんに向かって、言葉にした。
ずっと言えなかったことを。自分は人形には興味が持てなくて、もっと違う、建物の造形に心惹かれるのだと。……実は、藺連が気晴らしに描くスケッチブックの中には、建物の構造の描写で溢れているのだと。
父さんは、黙って話を聞いてくれていたが、一つ頷くと、言った。
「……そこまで心惹かれるものがあるのなら、徹底的にそのことを勉強する環境を整えてやろう。だから、必ず自分のものにしなさい」
頷いた藺連は、きらきらとした目をしていた。
その日、藺連は、自分の夢を決めた。