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父さんの部屋は、すごく静かで、けれど、何か特別なものが辺りに潜んでいるのではないか、そんな予感がするほどには、藺連を、特別な気持ちにさせた。空気が、作業場の清廉とした雰囲気と同じもののように思えて。
藺連は、口を開く。知らずに流れていた涙は、いつの間にか止まってしまっていた。
「お父さんは、……僕が、作業場で、上の空だったこと、しっていた、のですね、……申し訳ありません……ぼく……」
藺連が、謝ろうとすると、父さんは、不思議なことを藺連に言った。
「……私はね、お前のような子供時代だったから、お前の気持ちが解る気がするんだ。藺連は、別に夢中になるものを、もう、見つけてしまっているのだろう?……その気持ちを、私は責められるようには思えないよ。私も似たようなものだ。はは、こればかりは仕方がないな」
藺連は、目を丸くして、父さんを見つめて。