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午後になって、バクバクする心臓を抱えて、父さんの部屋の前で座り、一つ息をついた。
「お父さん、藺連です」
そう、声をかけ、父さんから入りなさいと了承を得て、襖を開けると、父さんは、真剣な表情で、何か書き物をしている姿が見えた。あまりぼうっとしているとまた指摘を受けてしまう。何も考えないようにして、部屋へと足を踏み入れた。
藺連が部屋に入ったことを確認したのか、父さんが顔を上げる。あまり、話慣れていない父さんと対面して、藺連は俯きたくなる気持ちを抑えた。
——何故か、そうしてはいけない気がしていたし、……そうしたくはなかった。
じっと見つめていると、父さんが口を開く。その、静かで深みのある声。
「藺連……私は、藺連、お前に才が無いとは思っていない。お前のその歳で、ここまでのものが創れるのかと、驚いた気持ちがある……。……けれど、……お前は、作業場ではいつも、上の空……らしいな」
どきっとして、その気持ちが表に表れたのか、藺連の肩が勢いよく跳ねた。同時に顔が真っ赤に染まっていくのを自らで感じ取って。
思わず顔を俯けた藺連を目にして、更に父さんは言葉を重ねる。
「別にそのことを私は責めようとしているのではない。……実際、お前は、
そのような取り組みにもかかわらず、形にすることが出来ている。きっと、器用な子なのだろう。……でも
、藺連、創られたものを見れば、解ってしまうものだ。……どれだけそのものに対して気持ちが入っていないか……など……私がお前に向いていないのかもしれないな、と言ったのは、そう思ったからだ」
藺連は、知らずに涙をこぼしていた。父さんが自分を意外に見てくれていたことを知って。