8.心を奪われて
ユキは、細い肩をすこしゆらすようにすると、くるり、と、わたしの方へふりむくようにする。
すこし、言い辛そうに俯きながら、小さな顔をわたしに向けて、気になって仕方ないというふうに、わたしに尋ねるように口にする。
「……多恵さん、多恵さんは、どうして……、どうして、女性のようなお話の仕方を、するの……?あなたは、とてもきれいなお顔立ちですけれど、……どう見ても、……多恵さんは、男の方、だもの」
……そうして、少しためらうように小さな口を閉じてから、ユキは、思い切ったように口を開く。
「……それ、は、なにか、理由があるのですか……?私は、……はじめて、多恵さんにお会いしてから、なぜか、とても、とても、あなたが気になるんです、あなたのお話なら、どのようなことでも知りたくなるのです、……私は、あなたが、急にここから消えてしまったときに、とてもとても、くやしく思ったんです、私、……あなたのこと、なにも、なにも、知らなかったから……だから、だから、もし、もう一度あなたにお会いすることがかなったのなら、聞きたいことは全てお聞きしようと決めていました。教えて欲しいんです、しりたがり、で、ごめんなさい、でも、私、知りたいんです」
わたしは、ユキの小さな顔をまじまじと見つめる。まるで、なにか、小さな手で、頬を撫ぜられたかのように、魂に直接触れられたように、心を触られた気がして、……それが、なぜか、すこしも不快ではなく、むしろ、わたしは嬉しかった。
……それが、とても、不可思議で、そして、とても温かくて……。
ユキが、そっとわたしの方に、すんなりとした白い腕をのばす。そのまま、わたしの頬に微かに触れた。
気づかぬうちに流れていた、わたしの右頬を伝う涙の一滴がユキの細い指先に拭われて、彼女の指を濡らしたことをわたしは、ユキの指に微かに頬が触れたことで気づく。
とけたように感覚が遅く、にぶく、わたしの感情に意識をとめようとしない。
「……どこか、いたいの?なかないで……」
ユキの方が泣きそうな顔をして、彼女は心配げにただただわたしを見つめる。
その彼女の表情には、奇妙なものを見つめるような困惑したような目も感情がゆがんだような目の色にとける嫌悪感も全くみえなかった。
ただただ、彼女の黒目勝ちな円らな瞳にはぼんやりとするわたしの姿と、わたしを心配げにみつめる彼女の心配げな感情しかみえてこない。
……それは、ただただ美しく、澄んだ水面のように穏やかでわたしは、そのユキの澄んだ美しさに、
――一瞬で、心を奪われてしまった。