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ふと、藺連は、不安な気持ちになる。今、辺りを見渡せば、そこは暗い廊下で……藺連は、パニックを起こした。
母から叱責を受けて、その日を何とかやりすごして、自分を殺して、眠りについた筈だった。自分の寝具にくるまった感触を藺連は、覚えている。
——それなのに。
……一体、ぼくは、どうしてしまったんだろう。
記憶が途切れてしまったり、夜中に知らずに歩きだしてしまったり……おかしくなっていく自分を敏感に感じ取っている藺連は、そのようなことを誰にも相談出来なくて……ただただ、怖くなる。
すっとひんやりする夜の空気を吸って、こつんっと、背中を壁に押し付けた。そのままずるずると座り込む。
その時、だろうか……カチッとする音がして、壁だと思っていた空間が突然開いたと思うと、そのまま藺連は、床にひっくりかえって、すんでのところで誰かに支えられた。……その匂い。藺連の好きな姉さんの匂い。
そのまま目線を上げると、驚いた顔をした、姉さんの目とぶつかる。髪を下ろし、寝間着をまとった姉さんは、湿った髪をしていた。ふわりとシャンプーの香りがする。
「……まぁ、おどろいた。藺連、こんな真夜中にどうしたの……?」
藺連は、思わず安心したのか、涙がこぼれて、頬を伝っていくのを感じて。