72.
「ふふ……」
わたしは、青年の心底、温かな柔らかい表情を、……母のことをまるで本当に大事な思い出のように、大切に語る青年の様子を、ひどく、嬉しくなって。嬉しくなって、抑えられなくなって、幸福な気持ちが湧き上がって、そのまま笑いを漏らすように声を少し漏らして、笑ってしまった。
青年は、私のそんな様子に気づいたように顔を上げると、……少し照れくさそうに、頭に手を当てると、青年も少し、口元を緩めて。
「……ははっ、おかしいかな……ちょっと、夢中になって話してしまっていたから……」
わたしは、そんな青年の様子を、笑みを浮かべたまま、否定して。いつの間にか、わたしは青年と自然に対峙出来るようになっていた。ひどくリラックスしている自分を感じる。
「……いえ、わたし、おかしくなって。……それに、とっても、とっても嬉しくて……楽しくて……知らない母の……知らない様子をこんなにうれしい心地で聞ける日が来るなんて……本当に嬉しくて……」
そういって、顔をうつむかせた。嬉しい気持ちは本当なのに、気を抜いたら涙がこぼれそうで、少しうつむく。
青年が、柔らかく口調を震わせた様子が雰囲気で解る。