65.それは、空のように(8)
「……わぁ、すごい……ですね」
わたしは、ドアを開けた瞬間に声を上げる。そこには、まるで絵に写し取ったような明るく美しい空間が広がっていた。スパニッシュ様式。エントランスも、光が存分に入り、リビングのアーチ型の扉の奥は、幾何学模様の格子がはめ込まれたガラス張りになっており、外に植えられている大きなヤシの木が見える。開放的でエキゾチックな空間が広がっていた。
わたしは、目を見開く。まるで、おもちゃ箱のような空間で。表玄関の印象とは全く趣が異なる様相に、目を奪われて。
鋭い目をしながら、雰囲気は柔らかい青年は、わたしの様子に、まるでいたずらが成功したといわんばかりに、子供っぽい無邪気な笑顔を見せた。隙のなさそうな顔立ちなのに、そうやって笑うと、まるで少年のように親しみやすくなる。そんな素敵な笑顔を持つこの青年は、笑うとえくぼができるらしい。
「……ふふ、そう、素直に感嘆してもらえると、嬉しいな。……姉さんは、この奥の部屋が好きだったんだ。……今日は天気が良いから日光浴に丁度良いだろう?……家には、僕は、紅茶しか飲まない……というか、紅茶しか飲めないから、それしか置いていないのだけれど……それでよいかな……?この間、青森に行ったときに、リンゴ農家の方が作られているとっておきの青森りんごのフルーツ紅茶を頂いてね!……ぜひ、君と一緒に飲みたいな」
青年は、嬉しそうにそういった。
わたしは、こくりと頷いて、お礼をいう。不思議な青年に呑まれたのか、いつしかがちがちに緊張していたわたしの身体が柔らかく弛緩し始めたのを感じた。リラックスしているみたいだ……。
青年が、キッチンへうきうきと姿を消すと、わたしは、そのままの場所にたたずんで、お日様の光が存分に注がれるガラス張りの美しい部屋を見つめて。
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