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64.それは、空のように(7)
「……ふふ、まぁ、とりあえず、こんなところで立ち話もなんだから……部屋に入らないか?……それにしても良かった。なかなかお客様も来ないような貧乏事務所なものだから、茶菓子なんて準備してなくてね……。酒なら揃えてるのだけどさ。今朝方、急に缶詰の桃が食いたくなって、買いに行ったところだったのさ。……ふふ、缶詰の桃は、姉さんの大好物だったから……君も好きなんだろうな……」
そこまで、一気に明るく言葉を紡いで、青年は、すこし、鼻筋を細長い指でカリカリっと軽くかいた。どうやら、焦ったときの彼の癖らしい。
わたしが、彼の話についていけず、目を白黒させていることに気づいたのか、気まずそうに言葉をとりなおすような仕草をし、大仰に腕を広げて、柵を開けた。
「……すまない!行き成り、ペラペラと。……僕は、案外緊張しているようで……柄じゃないな!どうぞ、中へ」
わたしは、彼に即されるままに、丁寧に手入れされたアプローチを歩き、建物の中に案内されて。
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