63.それは、空のように(6)
「……ここ、かな……?」
父の筆跡で書かれた話を聞くようにと教えられたわたしの知らない人物の住所にあった建物は、おしゃれなデザイナーズ物件だった。周りは、高級住宅街で、敷地が大きな家が多いのか、デザイン性の高い家がぽつぽつと点在し、あらゆる空間には美しく庭木が植えられていた。その高級住宅街の中にあって、大きな木々に隠されるように建っていた建物。住所を指定されていなければ、この道を通っても素通りしてしまっていただろう。
……それほどまでに、その周りに囲まれた木々に溶け込むようにひっそりと、それはあった。
(……すこし、わたしが住んでいた家の雰囲気ににている……まぁ、もう、燃えてしまったのだけれど)
すこし、躊躇して、すこし立ち止まるけれど、ぐっと目を一瞬つむり、ふーっと息を吐いて、黒い花の弦が絡まるようにデザインされた柵の壁横に設置されているテレビドアホンだろうそれに触れよう、とした。
すると、後ろから、声を掛けられる。わたしは、びくっと肩を揺らして、恐々としたひきつった顔で後ろを振り返った。
「……あれ、……あなたは……もしかして」
振り返った先に見えたのは、長めの髪を後ろでひとつに結び、理知的な額をむき出しにした、……それでいて、鋭い目をした、青年が立っていた。若い声は、まろやかに程よく甘く、柔らかい印象で、鋭さを見せる見た目の印象を柔らかな印象に変えている。
わたしは、一瞬とまどい……そして、深く、頭を下げた。
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彼は、きっと、父が教えてくれた、香山 藺連という人物の関係者に、……きっと、違いないだろうから、という気持ちのままに。