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58.それは空のように(1)
「……君は、きっと、知っているのだと思う。けれども、わたしの整理の為に、ここから先は、聞いてほしいかな……わたしに、もう、どれほどの時間が残されているのか解らないけれど……、わたしは、ユキ、君に会えて、本当に、幸せだった。最後に、君とこうしてお話できたことだけで、過ごせただけで、わたしは、今までの人生を幸せだったと言い切ることが出来るよ。だから、ありがとう。君には、本当に、本当に、感謝しているんだ」
ユキは、もう、ぼろぼろと零れ落ちる涙を隠そうとはせずに、わたしににじり寄ると、わたしの腰をつかみ、膝に額を擦り付けて、泣きじゃくる。まるで、子供のように。まるで、子猫が駄々を捏ねるように。
わたしは、ユキのふわふわな毛先をそっと手のひらで撫ぜながら、そのまま口をついてでる話の続きを口にした。まるで、天気の話をするように気軽に気楽に。……そして、それは、本当に気楽なことだった。……だって、これはもう、わたしの過去、終わったことの今ではもう、わたしには……終わった話に過ぎないのだから。
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