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55.秘密(2)
--「えっ……」
声を失ったわたしは、真っ青な顔で、それを見つめていたのだと思う。
それとほぼ、同時……と、言っても良いタイミングだっただろうか
鍵のかかった、ドアが開けられ、父が入ってくる。わたしの後ろに広がる惨状を目にすると、
妙に平坦な優しげな声で、わたしに言い聞かせた。
--「いいかい、多恵、これは、わたしと、多恵との秘密だ。誰にもいってはならない。言ってしまえば、怖いことが起きるからね。これは、秘密だ。多恵は、このことを忘れなければならない。忘れなければならないよ」
わたしは、やさしい声に安堵した。怖いことが起きないように、心の奥に仕舞って
あのときは、よくわからなかった。
--今は、……認めたくは、無い……
……やはり、そういうことだったのだろうかと、……思いたくはなかった
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