53.獣
温度の感じ取れない雪が、暗い空から降ってくる。
わたしは、ブリキの玩具のユキを左腕に抱えて、ぎゅっと胸に押しつけながら、めまいのする気持ちを抑えながら、揺れる視界の中に、幼いころの自分がいるのを自分を外側に置いた視点で見つめていた--
--「悪いのは、わたしじゃない、とうさんよ」
泣きそうに顔をゆがめても、それが自分の心の痛みだと知らないふりをする子供。
冷たい人形を、なにか大事な代わりのように、ただただ、すがりつくように、ユキと名前をつけた人形に語り続ける子供。
--ふっ、と、違和感が、心をかすめた。
……あの後、わたしは、どうしたのだったっけ……。
……確か、あの日は、わたしは……なにかを、見つけて……
はっと、わたしは、目を見開いた
**
きっと自己防衛本能で、無理やり閉じ込めようとしていた記憶の欠片が、つながっていく
「っひ、」
眼を大きく見開いたまま、わたしは、引きつけのような声を出し、
そのまま、音のない叫びを放った。
……わたしは、まるで、自らが獣ようだと……思う。
(っっつぅぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっ)
血がにじむのではないかと思うほどに、目の奥がきしむ。
喉奥がけいれんする。
わたしは、口元を抑えて、その場に、突っ伏した。