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50.偽物(6)
ふと、視線を感じた気がして、左手に目を向けると、
部屋から飛び降りて、いったはずの……
あの時、目に焼き付けたはずの……
父の姿があった。
父としか思えない人が、こちらを虚ろな目で見つめている。
びくりっと身体を揺らす。
ぽたぽたと、暗い空から白いものが落ちていくのを感覚の端で見つめたように思う。……寒さは、全く感じなかった。
それは、口をひらく
なにかを言いたげに
なにかを伝えたげに
……無音の世界の中、音など聞こえないのに
がくがくがくと足が震える。
ふらふらと、無意識に足を進め、ふと、何かに足が触り、慌てて、下に顔を俯けると、そこには、立ち入り禁止の看板と共に、ロープが張っていた。
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