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49.偽物(5)
ぱっ、と、ドアを開け、見渡す。
廊下は、静かに静まりかえり、人の気配はない。けれど、右手にある非常階段のドアが何故か、数センチ空いたまま固まったようになっていた。
誘われるようにドアを開くと、外へと続く階段になっていた。外に備えられた白い階段。かすかに聞こえる、カンカンカン……と、階段を慌てて駆け降りるような音に、わたしは、追い立てられるように降りていく。
かなり急いで降りているのに、なかなかその人物に出会えない。
半ばムキになりながら、気づけば、降りることに集中していた。
手すりを滑るようにつかみ、いつの間にかブリキの玩具のユキを左腕に抱えて。白い階段の隙間に足を差し入れないようにでも出来るだけはやく。はやく。追いつかなくては。
そして、ふっと、足の抵抗がなくなったと思えたとき、足は地面にたどり着いていた。
慌てて、ぱっと顔を上げる。
辺りは、シンっと静まり返っていて、その時は何も疑問に思わなかったが、奇妙なまでに音がなかった。
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