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48.偽物(4)
ブリキの玩具をぎゅっと抱える。煤がつくのも構わずに。
--子供の頃は、よくこうして、腕の中に彼女を閉じ込めた。ずっと一緒だった。なんでも、話しかけた。怒りも、悲しみも、喜びや、悩みさえも。彼女にぶつければ、全て霧散するように消えていった。
……そうして、優しい穏やかな気持ちにまた戻れるのだ。安心という目に見えない羽衣に包まれるかのように、それはほっとするもの。
わたしがベットの上に座ったまま、彼女、ブリキの玩具に触れていると、背後で、カタンッという音がした。
--キィ。
ぎくっとして後ろを振り返ると、音もなく開いたドアが、今度は、小さくきしみながら、静かに……閉じていく--。
そして、かちゃん。という無機質な音を響かせて、ドアが閉まり、ロックが掛かったような音がした。
一瞬の混乱を振り払って、わたしは、今度こそ、叫ぶ。
--「……だれか、だれかいるのかっ?」
わたしの声にこたえるものはなく、部屋は静まり返ったまま。
わたしは、ブリキの玩具を左腕で抱えたまま、あわてて、ドアまで進み、右手で、ドアを開けた--。