45/89
45.偽物(1)
ノックの音に、わたしは、身体を強張らせる。
わたしが返事をしないままに、静かにドアが開いていく。--ゆっくりと。
オートロックのはずの重たいドアが音もなく開くと、空いた状態で、そのまま、停止--した。
**
空いたドアの向こうには、--誰も、いない。
わたしは、息をすることも忘れてしまったように、身じろぎひとつせず、じっとその、何もない空間を見つめた。
**
……数分なのか、数時間なのか、それからの時間は曖昧だ。
わたしは、身体がベットに張り付いてしまったのではないかとそう、思えてしまうくらい、あきれるほど長い時間を、かたまったようになったまま、過ごしたと思う。
わたしの強張った身体を動かしたのは、首筋を撫でた、ひやりとした氷、のような感触だった。
**