39.父の死と
ピアノの音が吹雪の音に混じって聴こえてきたとき、窓が赤く燃え上がった。
ーーまるで、あのときの、あのときの母の箱庭が燃えたときの光景、その時と同じ色の、あか……そのままに、窓が染まる。
わたしは、青ざめて、凍えた身体を引きずるようにドアの元へ這いずっていく。
……やっと、ドアに手がたどり着いた時、鍵が間違いなくかけられていた筈の倉庫のドアが、苦もなく、ひらいた。
這いずりながら、やっと、雪が舞い散り、雪が積もった外に出る。よろよろと、雪の上に膝をつき、力なく立ち上がった。ちりちりと、木が焦げる匂いがする。
倉庫の窓の方向、二階建ての母屋を見つめると、そこは、赤く燃えていた。
唖然としたままに、見つめているわたしの目に飛び込んできたものは……。
2階にある、父の書斎があるだろう窓から、落ちていく、人、の形。
--それは、赤く燃える家をバックに、赤く照らされて見えた。
ちらりと遠目から見えた父の表情を、わたしは……。
--わたしは、忘れられない。
……忘れたくとも、忘れられない。
……父は、燃え盛る家の窓から落ちる、という状況で、……幸せそうに、笑みを浮かべていた。
……見たことが無い、それはそれは、幸せそうな、笑みを、浮かべていた。
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