38. 吹雪と、音
過去の記憶の再現のままに、わたしは、冷たい倉庫の壁に、背をつける。
ずるずると、背からずり落ちて、わたしは、そのまま冷たい床に頬をつけた。
冷たい吹雪が、窓の外でふぶいていることを感じる。
倉庫は冷たく、手足は、凍えている。
もうどれくらい、このような状態でいるだろうか。
ーー母、を、思った。
……正確には、焦がれるように、思う、母という存在を思った。
……わたしは、母に生き写しなのだと、父は言う。
自らの顔に手を這わせた。
幼い頃から、母は、わたしの前に現れない。母という存在の確認は、白百合の花の香りと、母が奏でるピアノの音。
--わたしは、母がどのような顔立ちでどのような表情で、わたしに話しかけるのか、知らない。
……母の手のひらの温かさを知らない。
父が用意した箱庭で、母は、今のわたしのように閉じこもり、なにを考えていたのだろうか。
……父は、わたしという存在を否定 していて尚、わたしの顔立ちに母を見つけては、わたしという存在を否定しきれない。
横たわりながら、高い位置にある窓を見つめた。
白い雪が舞い上がる様をじっと見つめる。
……あの日、母の箱庭が燃えてしまった日のことを思った。
……母は、生きているのだろうか……。……それとも、……
わたしは、拭いきれない疑念を思い浮かべては、ぎゅっと、目を閉じた。
--そのとき、吹雪の音に混じって、耳をかすめた音。
思わず、目を見開く。
……母のピアノの音が、聴こえるーー。