36.憎しみの連鎖 ~愛憎
「……多恵、お前は、憎らしいほどに、お前の母さんにそっくりだね。……まるで、お前は、お前の母さんの生き写しだ……まるで、お前がお前の母さんの精気を吸い取っていったのではと思えるくらいに、日に日に、……お前は、雪に近づいていく」
わたしは、固まったように、動けない。……これは、巻き戻された過去の再生だ、と、痺れた頭の端で思う。……過去の……わたしは、この後、父がわたしに、行う行為を知っている。
老いた父は、昔と比べて、大分縮んだように見える身体をよりいっそうちぢこませると、憎しみの隠った目で、わたしを見つめ、不意に手元に置かれていた湯の入ったガラスのコップをわたしに投げつけた。
わたしは、動くことが出来ず、頭から湯を被る。
途端に火傷した皮膚を感じながら、わたしは、身動きひとつ出来なかった。
父は、無抵抗なわたしの長く伸ばした髪を衰えた手でつかみ、引き摺る。わたしは、諦めたように目を閉じた。……行き先は、幼い頃から変わらない……暗い倉庫。
指先が、氷のように冷たい。
窓の外はキンキンに冷え切っている。嵐が来ている。吹雪が窓に当たる音がする。
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