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32.箱庭
……母は、あの、箱庭のような白百合で埋め尽くされたむせるような香りの中で、グランドピアノと、ベットと机のみの部屋で、なにを思っていたのだろうか。
--母の部屋から、出火した火は、母の全てを焼き尽くした。
……母の骨は見つからず、母が残したものは、わたしの中と、父の中に残された母の面影の記憶のみだった。
母の世界は、とても狭く、母を知っている人は、わたしと父以外に居なかったように思う。
父が人から隠れるように森の中に建てた家の奥まったところに作られていた母の部屋。
母の部屋から出火した火は、不思議なことに母の部屋のみ焼き尽くして消えた。
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