26/89
26.黄泉わたり(15)
ふわりと、場面が変わったことを、わたしは、既に慣れ始めている感覚で知ったように思う。
顔を上げなくとも解る。
ここは……わたしが、かつて、わたしが、願った世界。
顔を上げると、傍らには、心配気に見つめる母の顔があり、母の目は、わたしを見つめ、わたしに語り掛けるだろう。
かつて、わたしを一度も見もせず、存在すら、認めていたかも解らない母が、この世界では、わたしを見つめ、気に掛ける。
わたしが、思い描いていたように昔のわたしの宝物の面影に寄せたその顔で。
**
顔を上げた時、わたしは、自然に零れ落ちて、止まらない涙を流しながら、隣に佇む母を見つめた。
なにが哀しいか、解らない。
……けれど、涙がとまらなかった。
……ただただ、哀しくて。
……ただただ、空虚で。
**