2.ブリキのおもちゃ
わたしが、子供の頃、貿易商を営むわたしの父親が、わたしに買い与えたブリキのおもちゃは、当時のわたしの宝物だった。
なぁ、父さん、あなたが、わたしに買い与えたあの色鮮やかなおもちゃたちは、今、どうしているでしょうね?
何故、わたしは、今、このようなことが気になるのだろうか
ふと、腕がとれてしまった、ブリキのおもちゃのことを思い出す。
彼女は、わたしが特に、目に入れても怖くないほどに可愛がっていた子だった。
黒目勝ちな円らな瞳が、描かれた、ちいさく、清楚な顔だちに、女の子すぎない出で立ち。
なぁ、父さん、あなたが、わたしに買い与えたあの色鮮やかなおもちゃたちは、今、どうしているでしょうね?
ここ、箱庭に来てから思い出すようになった、わたしの子供の頃の出来事は、わたしのこころを、甘くしめつける。
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わたしが、特にちいさかったころ、ブリキのおもちゃである彼女は、わたしの心の支えだった。
彼女によくわたしは、お話を聞かせたものだ。
犬になったおんなのこのお話や、アブラゼミを追いかけて、いつのまにか羽根が生えてしまったおんなのこのお話。
時には、彼女にわたしは、泣き顔をみせて。
あれは、わたしに甘い父さんに、めずらしく叱られた日、だったろうか。
わたしは、彼女と共に、暗い部屋に閉じ込められて、ひとばんじゅう、話をきいてもらったものだ。
わたしは、わるくないのよ。父さんがわるいのよ。
そんな話をしたような記憶を、うっすらと思いだす。
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ユキとの穏やかな毎日は、いつも突然に、ふいに、誰かが、驚いて、わたしをそこから追い出してしまうように、いつもぶつりと途切れて、わたしは、日常に戻される。