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17.黄泉わたり (6)
わたしが、ぼんやりと、ベットに座っていると、ノック音がして、わたしの担当医が部屋に入ってきた。
相変わらず、無表情だ。
彼は、わたしの前に佇むと、一言、何事かを言った。
ノイズが掛かったように聴き取れず、わたしは、ほんのすこし、顔を歪める。
担当医の顔が波のように歪み、ゆらゆらと揺れた。
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目を開けたとき、わたしの目の前に居たのは、ユキ だった。
「多恵さんっ」
ユキは、わたしが目を開けたことを知ると、わたしに飛びついてくる。
ぼろぼろと泣きながら、わたしに縋りついた。
彼女の身体は、泥だらけで、スカートの裾や、彼女の小さな手は、可哀想なことになっている。
「っここから、多恵さんが落ちた時には、心臓が止まるかと思いましたっ」
涙が乾いた後のユキはひどい顔をしていて、目元は赤くにじんでいる。
わたしは、突然に思い出す。
そう、わたしは、ここから落ちたのだ
この目の前のそびえたつ岩山から。
我ながら、よく無事だったものだと、自らの身体を見やる。
わたしの身体は傷だらけだったが、あの岩山から落ちたということを省みれば、あり得ないほどに軽症に見えた。