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16.黄泉わたり(5)
わたしが、子供だったころ、わたしは、母と触れ合ったことがない。
つい最近まで、わたしは、今のように母と言葉を交わしたことも、肌を触れ合わせたこともなかった。
……無かったのにも関わらず、わたしは、そこに違和感を思う。
何故思うのか、それは徐々にだったけれども、
それは、甘やかな違和感として、わたしのこころを悩ませた。
複雑に。
……わたしの心を揺らした。
わたしが、ユキに会い始めたころから、わたしの心が揺れ始めていることをわたしは、気づいていた。
表情豊かに見える筈の母の顔が、わたしの心が正気になればなるほどに、わたしが昔、大事にしていた、ブリキのおもちゃの顔に見えてくる。
そう見えそうになればなるほどに、わたしは、視界が靄につつまれるように意識的にそこに溺れようとした。
……正気になってはならない。
……気づいてはならない。
……それを、見つけてはならない。
--なに、を?
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