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15.黄泉わたり(4)
わたしは、靄につつまれた視界に居るような気にいつの日かなりつつあった。
否、視界はクリアだ。……そして、わたしの頭の中も、……きっと、これまで以上に。
……けれど、わたしは、認めたくなかった。靄につつまれた視界に居るような気になりたかった。
……わたしは、正気になりたくなかった。
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「たーちゃん、最近、やわらかな表情をしているわね」
母は、わたしの額をやわらかな手のひらで撫ぜる。
肌がすれ、触れ合う度に、わたしは、ひどく心もとない感覚に襲われる。
……それなのに、それが、ひどく、嬉しい こころが、ほのかに浮き立つように思えて、わたしは、きゅっと、眉尻をしかめた。
くっと、こころにやわらかなひずみがうまれるように思える。