4話
約束の集合時間にはまだ30分ほど早いが呼び出されたアビリティ保持者が全員集まった。この地域から離れてるやつらもここに呼び出されたらしい。総勢307人。
そいつらがここに現れるとき、ある場所が光ったかと思ったら突然人が現れたから多分あの自称女神の能力でワープでもさせられたんじゃないか?
きっとこいつらも友、恋人、家族を守りたい思いや、謎の存在に呼び出された好奇心でここにいるのだろう。
「ふむ、全員集まったようね。」
「早く説明してくれ」
「わかってるわよ」
コホンと咳ばらいを一つしてトイフェルがここにアビリティ保持者を呼んだ経緯を話し始める。
「私は女神トイフェル。あなたたちをここに呼びだしたのはほかでもありません、この私です。先ほどのメッセージでも書いたように魔物はまだすべて排除しきれたわけではありません。この地に新たな魔王が誕生しました。まだ力を完全に使いこなすことはできないもののある程度の魔物を生み出すことは可能なようです。魔王がこの環境下に慣れ本来の力を取り戻してしまえば、この地に厄災をもたらすでしょう」
魔王だって?どこのファンタジー世界だよ。異世界に行ったわけでもなく、もともとこの地球に魔物がいたわけでもないのにいきなり魔王なんてにわかには信じられない。
「そこであなたたちにはここでバトルロワイヤルを行ってもらいます。有体に言えば勇者をこの場で決めるということです。ルール違反などはありません。倒せば勝ち殺しても勝ちです。もちろん行きたくない方は参加しなくて結構です。」
今のトイフェルの殺してもという発言に周囲の人々はざわめいている。
「あちらの世界へ行くには殺し殺される覚悟が必要です、その覚悟がないものは各々の街に残り魔物から街を守ってください。今から2分後にバトルロワイヤルを始めます。」
少々辛辣なようにも聞こえるがその覚悟がないものを魔王討伐に送りだしてもなんの役目も果たせずに死ぬだろう。
魔王と対峙する覚悟があるものが俺と瞬を含め100人ほど残った。残りの200は家族や恋人がいるから死ぬわけにはいかない、などの理由ですでにここからはいなくなってしまった。ここから引くのも懸命な判断だ、街を守るための人も必要だからな。
トイフェルの宣言から2分経ち、いよいよバトルロワイヤルが始まる。
「ご武運を。バトルロワイヤル、スタート」
開始の合図とともに血気盛んなアビリティ保持者たちがうおおお、という雄たけびを上げて近くの人とすでに戦い始めていた。ここはだだっぴろい空き地で隠れる場所などどこにもない。
そうピンチである。レベルは高いが一撃の威力の高いアビリティなどは持っていない。イールというアビリティに関しては小指をぬるぬるさせるだけだ。意味が分からない。
とりあえずはヒノキマスターでしのぐしかないか。
俺はヒノキマスターで太刀を生成する、全長2メートルの太刀だ。これが本物の鉄でできたものならかっこいいんだがな、残念ながらヒノキでできている。
私服に長い木刀というのが弱そうに見えたのか一人の男が俺に接近してきた。
「お前はその木刀を作るアビリティか、残念だったな、俺は本物の刀を作れるんだぜ!」
畜生本気でうらやましい。
「木刀と本物の刀、どっちが切れ味が鋭いかわかるよな?今降参するなら見逃してやらなくもないぞ?」
「ん、おにいさんもしかして木刀しか作れない俺なんかにびびってるの?」
「は、びびってねえよ!せっかく命助けてやろうとしたのに、もうしらねえからな!」
はぁ、うらやましい。こいつゴミとしてそのアビリティ捨ててくれないかな。なんて考えてるうちに男が飛び込んでくる。こんなにわかりやすく上段に構えてたらよけるのも容易い、あのビルで戦ったゴブリン型の魔物と同程度じゃないか。
俺は身を低くしてこの男のわきを抜け、踏み込み回転しながら首へ向けて太刀を振るう。んん、殺してしまうのも後味が悪いな。
ヒノキマスターを発動し土管状のものを生成し男を閉じ込める。外側に足場を作りゆっくり上っていく。
「おにいさん、俺のアビリティが木刀を作るだけだとおもった?残念。こんなこともできるんだよ」
そういいながらヒノキで作った土管の上部から一段、針を生成し飛び出したように演出する。それを一段ずつ下に作っていき男の恐怖心を煽る。そこにすかさずゴミアビリティ、スクアーロ(口の中に無数の牙が生え、歯がとがる。口を閉じると歯が刺さって痛い)を発動し、尖った歯を見せながらにやりと笑う。
「ひっ…!」
「おにいさんのそのゴミアビリティで俺に勝てると思ったの?バトルロワイアルから逃げきれてもそのアビリティ持ってたら強制的に魔物の討伐に駆り出されちゃうよ?そのゴミアビリティを捨てるんならこのバトルロワイアルの参加資格も魔物の討伐もしなくて済むだろうけど。」
「ごみ」と「捨てる」を強調しながらも針を飛びださせるのはやめない。ずんっ、ずんっ、と針が飛び出していき後一つで男の顔に到達するといったところで
「わ!わかた!しゅてりゅからころさないでくりぇ…」
なんとも情けない声が聞こえてきたので針の進行を止める。男は涙と鼻水で顔をべちゃべちゃにしながら虚空に何か触れるような動作をしている。
「す、捨てた!捨てたからここから出してくれ!」
男が言うように脳内にゴミを拾った時の音が流れる。拾ったごみを確認してみると確かにアビリティが入ったファイルがそこにあった。
アビリティを獲得した今もうこの男に用はないのでヒノキマスターを解除し出してやる。
「マッマー!!」
出した瞬間に男は情けない声を出しながらそそくさと逃げて行った。
狙い通りだ。捨てさせてしまえばあとはこちらのものだ。ファイルをタップし少しのダウンロードの後に獲得したアビリティが表示される。
【エルツファーレ】
刀や剣を生成することができる。
単純だがそれがいい。刀は男のあこがれだ。
早速エルツファーレを発動し、日本刀を生成する。ついでに小太刀も生成し、鞘をヒノキマスターで作り小太刀を差し込む。っはぁぁぁぁなにこれかっこいい!!これならバトルロワイヤルも勝ち残れそうだぜ。
日本刀を作ったはいいものの俺の他のアビリティはごみだし積極的に戦いを挑みたくはないな。
トランスパーレント(息を止めている間透明になれる。解除後1分硬直)とボニートを発動し少し高い塀の上で足をぶらぶらさせている自称女神トイフェルの元へと移動してみる。このゴミ能力を与えてくれたお礼もしなきゃならないしな。
あ、あれ?あのゴミ能力者君消えちゃった!せっかく面白いことしてたから見てたのになー。でも男のロマンあふれる透明になれる能力なんて誰かがゴミとして捨てるはずないしなー?
なんて考えてたら隣にあのゴミ能力者君がいつの間にか現れて、私と同じように塀に座ってた。それもこっちをじーっと見つめて。
「わぁっ!びっくりしたなーもう。いつそんな透明になれるアビリティゲットしたの?誰かがゴミとして捨てるはずないしどうやったのか気になってたんだよねー」
「…」
「え、ちょっとなんで黙ってるわけ?」
「…」
「なによ、なんか言いなさいよ」
「…」
「そ、そんな見つめられたら。は、恥ずかしいんだけど…」
きゃー!なに?どうしようなんだかドキドキしてきちゃった。なんでこんなに見つめてくるの?え、きききキス!?いやいや会ってまだそんな時間たってないよ、前回と合わせても10分一緒にいたかどうかもわからないのに。えぇー、でもこんな真剣な眼差しを向けてくるってことはそういうことなの??
「わ、わかったわ、あなたの思いは受け取ったわ。あでも、その、これでも初めてなんだから優しくしてよね…」
目をきゅっと瞑る。口先を少し前に出し相手を受け入れやすくする。肩に手が置かれいよいよなのだなと、覚悟を決める。
あれ?まだなの?
「どうした、そんな不細工な顔をして」
目を開けると今にも吹き出しそうだ、というような顔をしたゴミ能力者君がこっちを見ていた。
「いや実はな、トランスパーレントっていう透明になれるアビリティをひろったんだけどやっぱゴミとして捨てられてるわけだからただ透明になれるってわけじゃなくてな。透明化解除したあと1分間硬直するんだよ」
んな!硬直ぅ!?まさかあの見つめられてるって思ったのはアビリティ解除したあとのただの硬直だったってわけ!?
「…最低」
「お前が勝手に勘違いしてただけだろ?女神なのにそんなこともわからなかったのか、やっぱり自称女神なだけはあるな!…これでも初めてなんだから優しくしてよね…はっはっはっはっはうける」
「はぁ!あの時もう硬直解けてたの!?最低、乙女の純情を弄ぶなんて…」
くそぉはらたつ!アビリティは全部把握してるんだからもっと冷静に考えればわかることだったわ。このゴミ能力者君がこのアビリティを拾ってることくらいわかったはずなのに!
「それで、ここに来たってことはなんか聞きたいことでもあるんじゃないの」
「そうだったそうだった、いやー面白くて忘れてたわー。お前がさっきから言っていたあちらの世界ってのはなんなんだ?」
ひとしきりトイフェルをからかった俺は気になっていたことを問いただした。あちらの世界ってのはまあなんとなく予想はついていたが異世界のことらしい。要は異世界に行ってこっちに魔物を送っている正体をつきとめてぶっ倒してこい。そのために力のあるやつを異世界に送るため今ここでバトルロワイヤルを始めたというわけだ。
「はぁ、力のあるやつね。いいもん引き当てたやつらは何人いたんだ?」
「そうですね、今ここにいるのは9人でしょうか」
9人ね、その中にきっと瞬も入ってるだろうから8人か。全部瞬が倒してくれるかつぶしあってくるのをここで待つか。トーナメントじゃないしバトルロワイヤルってんなら残り二人に選ばれればいいだけだし。
「二人になるまでここにいるつもりですか?」
「うんもちろん」
「じゃあ二人になっても連れて行ってあげませーん」
「はーおいうそだろ?バトルロワイヤルって言ったのはお前だろー!」
「さっきの仕返しですー」
子供みたいなこと言いやがって。
「じゃあ本気出しちゃうけどいいんだな?」
「ええかまいませんよ、あなたのアビリティの本気なんてたかが知れてますからね」
よしよし、女神さまからの許しも出たし本気出すか。不格好だからあんまり使いたくなかったんだが異世界に行けないなら元も子もねえ。
今からやることに瞬を巻き込みたくない。あらかじめこちらに呼んでおく。
すると瞬は諦めたように、何かを察したようにこちらへ歩いてきた。
ありがとう瞬。
俺はアビリティ巨大化を発動し文字通り巨大化する。今の身長の8倍だから14メートルくらいかな。もう既に格好悪いが更にかっこ悪いアビリティを発動する。イールだ。俺は小指から大量のよくわからないぬるぬるしたものを地面に向け放出し続ける。ついでにぬるぬるの中ににラッザ(全身に塗り込んだら毒がまわる)を付加する。
こんなでかいただの的みたいなやつも小指からよくわからないぬるぬるを出しているせいか誰も近寄ってこない。それをいいことにぬるぬるを今ここにいる全員の足元まで届くように出し続け、地団太を踏む。
この場に軽い地震が発生し足元にはぬるぬるがあるから当然バランスをとることができずに転倒。ぬるぬるにはラッザを付加しているからしているから転倒させたときに毒が体にしみこんでいく。
あとは巨大化を解除、瞬のところの戻りヒノキマスターを発動し全方位を守れるようなドーム状のものを2重に作り待つだけ。出たころにはみんな瀕死状態になってるんじゃないかな。
初めての対人戦闘ってだけあってか、ヒノキのドームに入ってから俺と瞬は眠ってしまった。毒を敵の体に入れたとはいえ安心できるような状態ではないのにもかかわらずだ。肝が据わっているといえば聞こえはいいが、単純に俺たちがあほだったというのもあるだろう。
ヒノキのドームをたたくコンコン、という音で俺と瞬の目が覚める。
「もうでてきてもいいよ、もう全部終わったから」
ドームをたたいたのはトイフェルだった。もう終わったということは毒が全身に回って動けなくなったということだろうか。とりあえずドームから出て状況を確認しなければな。
「なっ…嘘だろ」
ドームから出てみた光景はまるで初めて魔物が現れたあの日のようだった。
何人かの人は既に息絶えている。他にも俺が毒の海へ沈めたものは皆、一様にもがき苦しんでいる。
どうやら俺は毒というものを甘く見ていたようだ。毒には即死性のものから遅効性のものまである。俺はラッザがどのような特性の毒なのかを実験することもなく使用した。どうやらラッザは遅効性の毒のようで、その効果を遺憾なく発揮した毒は今もアビリティ保持者たちを苦しめていた。
こんなはずじゃなかった、どうせ俺の拾ったアビリティなどただのごみだろうと考えていた。おまけ程度に発動しておいたラッザがここまで効果を発揮するなんて思いもよなかったんだ。
俺は俺が作り出した毒の海を歩く。俺が作り出した地獄ともいえるこの光景を、現実を自分のわからせるために。
無情にも死んだ者たちからアビリティを回収していく。死んだ者のアビリティはごみとして扱われるみたいだ。
「トイフェル、許してくれ。こんなに、いや人なんて殺すつもりじゃなかったんだ」
「何言ってるんだゴミ能力者君。殺しを許したのは私だよ」
「そうだけど、そうだけど!違う、俺は殺そうとしたわけじゃないんだ…」
「何をいまさら、毒は生命を害するものということは周知の事実のはずだよ。それを使っておいて殺す気はなかったなど笑わせないでくれるかい」
そうだ、少し考えればわかることだ。かっこいいアビリティはを獲得して有頂天になっていたんだ。
俺ならばできると思った。ゴミゴミ言っていた能力も使い方次第では強くもなるのだと、今日の1戦で、いや魔物と戦ったあの三日間で理解していたはずなんだ、あの三日間を生き延びたのだから。
「ゴミ能力者君、理解してくれたかな、アビリティの怖さを。君がこのまま魔王討伐に行っていたらきっと自分の能力に溺れて暴走してしまうんじゃないかと思っていたから今回は丁度よくいい教訓になったんじゃないかい?」
「こんなに人が死んでるのになにが丁度いいだよ!それになんだその俺が魔王討伐に行くことが決まっていたような発言は」
「なんだ、だって?そんなの私が特別に力を与えたんだ。いっただろ星を1つ救う力が手に入るって。ならば君がいかなくて誰が行くというんだい?君も気づいてるだろうけどその力がゴミなわけないだろう?よく考えてごらん。ゴミとして捨てられたといえど君以外に複数のアビリティを保持している者がいたかい?それに君は今日最初に自分でやってのけたじゃないか、使い方次第では自ら捨てさせることもできるし、殺せば君のものだ。」
「あぁ、十分に理解したよ。だから俺からこのアビリティを剥奪してくれ」
もう十分だ、アビリティという夢の能力をこの何日間か存分に使うことができた。なんの考えもなしに人の命を奪ってしまうような俺に、アビリティを持つ資格などない。
「それは無理だよゴミ能力者君。君には私が力を分け与えた時から魔王討伐に行ってもらうことは決まっていたからね」
「俺が魔王を?だめだ、このままアビリティが増えればそれこそ本当に有頂天になった時愚かなことを繰り返してしまうかもしれない」
「大丈夫、君はちゃんと自分を理解しているじゃないか。そんな君がまた同じことを繰り返すとは思えないけどね」
「俺は、また人の命を奪ってしまうかもしれないと思うと怖くて何もできそうにない…」
「そうか、じゃあ残念だけどあそこで魔物に襲われている女の子はもう助からないね」
トイフェルが指をさす方向にいたのは、地下シェルターで出会ったあのポニーテールの女の子だ。ゴブリン型の魔物の集団に囲まれて今にも泣きだしそうな顔をしている。
「なんで、なんでここに!」
(´◉◞౪◟◉)