1話
簡単に言うとそこには地獄と形容するにふさわしい光景が広がっていた。空は茜色に染まりビルは崩壊し人々は逃げまどっていた。中には腰を抜かし崩壊したビルの瓦礫に押しつぶされる人、人の波にもまれ離れ離れになる親子、我先にと俺の後方へと向かって走っていく。俺の肩にぶつかるが誤りもせずに悲鳴をあげて逃げていく。そんな人々にいら立ちも覚えず俺たちはただ突っ立っていた。
「おい、おいおい嘘だろ、剣太逃げるぞ!」
「そうだね、とりあえず地下シェルターに逃げ込もう!」
俺はふと立ち止まり周りを見渡す、先ほどと変わらず見渡す限り地獄絵図だ。だが俺のわずか後方、ビルの一角が空の茜色とは違う輝きを放っていた。
「瞬、あそこなんか光ってるんだけど」
「あぁ、そうだな。でも今はそんなことより逃げねえと!」
「うん…いやごめん瞬、先に地下シェルターに行って待っててくれ!」
「おいまて剣太!」
すまない瞬。気遣ってくれるのはありがたいんだけどどうしても、あそこにいかなきゃいけない気がするんだ。
あの光の下へと向かう。夢を追い求めて。煌々と輝くそれをよく見るとなにやら人の形をしていることがわかった。それに近づくために歩み寄ると突然声が頭の中に鳴り響く。
『私は女神トイフェル、突然こちらに魔物が現れて驚いていると思いますがどうか、どうか私たちに力を貸してはくれませんでしょうか』
青く長い髪を二つに結び、白く輝く装飾品をつけたドレスのようなものに身を包んだ、まさに女神というにふさわしい女が話しかけてくる。
「魔物。やはりあれはこっちの世界では考えられないような存在なのか?」
「そうです、あの魔物は…いえ、今はもう時間がありません。どうかわたしを助けると思って力をお貸しください」
「…わかった。俺に何かできるならなんでもやってやる!」
「なんと頼もしい、ならばあなたにはあなたの望む力を授けましょう。さあ強く願って」
望む力だと?ならばこの状況を打破できるような強い力が欲しい。
何が一番有効なんだ。あの魔物にはなんの攻撃が効いて何の攻撃が効かないのか。くそ、情報が少なすぎる!なんの情報もないままで一番の有効打になる力は何だ?属性か?いや属性は選択しが多すぎるから却下だ。みんなを守れる力……。でかいシールドを張れる能力はどうだ、いや後ろに回り込まれたら終わりか。防御力の高い鎧なんかはどうだ、いやこれもダメだ防御力があっても攻撃力に欠ける。無闇に防御能力だけ硬くても魔物を倒せなければなにもかわらない。
ならば範囲攻撃魔法?いや一般のひとをまきこんでしまうかもしれないくそっ、どうすれば……。
あれそういえば部屋にあったでっかいゴミ回収したっけ。
などと考えているうちにおれは光に包みこまれる。
えっ、これ制限時間とかあんのちょまっまだまとまってな…
「はぁ。」
「おい剣太」
「あぁ瞬か、どうしてここに?地下シェルターに逃げたはずじゃ」
「友達おいて自分だけ逃げれるかよ」
「瞬…俺の方こそ瞬を置いて行っちゃってごめんね」
「いやいいんだ、それよりなにか収穫はあったのか?こういう時の剣太の感はするどいからな。テストでもその勘が発揮できればいいんだけどな?」
にやにやしやがって、今はテストのことなんてどうでもいいんだよ!
「うるさいなぁ、収穫はあったよ一応ね」
「一応ってなんだ一応って」
「あの光の下にいたのは女神トイフェル。自分でそう名乗ってた。それとあの女神に魔物を討伐するための力を授けるから手を貸してくれともね」
「魔物の討伐だと?そんな危ないことお前がやる必要ねえだろ!きっと待ってたらそのうち自衛隊とか来てくれるって!」
「ごめんね瞬、自分でも危ない橋だってわかってはいたけど、ずっと憧れてきたものだから」
「そうか」
その言葉を置き去りにし、瞬が背中を向けこの場から去っていく。瞬の言うことを聞かずに一人でここまできてしまったこととか怒ってるのかな。俺はこの場に呆然と立ち尽くしてしまう。トイフェルから力を貸してくれと頼まれたのに、親友を失った絶望感から立ち直ることができない。それから数分がたち
「おい剣太」
「瞬!?どうしてここに」
「それさっきも聞いたぞ。女神に力を貸してくれと頼まれたのだろう?剣太一人じゃ無理だろうから俺にも力をよこせってな。」
「瞬…やっぱり瞬は最高の親友だ!でも俺の能力自動でゴミを集めることなんだよね」
「なにそれ聞いてない」
俺はあの光に包まれたとき考えていたこと、それはどんなかっこいい能力でも強い武器のことでもなんでもない。部屋のごみを片付けたかどうかだった。あの瞬間に部屋のごみを片付けたかどうかを考えていたことによっておれの能力は人がゴミと認識したものを自動的に拾う能力、その名もゴミ収集マンを得た、ということを瞬に説明する。
「お前バカだろ…いつもあんなかっこいい能力がほしいこんな能力が欲しいって言ってたくせにいざその時が来たと思ったらこのありさまかよ」
「いやでもね!ひとつ、たったひとついいことがあるんだけど。ズボンのポケットとかカバンとかの自分の身に着けているなにかを収納できるものにならなんでも入るんだよ!容量も無限!つまり俺はごみを無限に回収し続けることができるゴミ収集マンになったというわけさ!悲しいね。」
よしあの女神に文句をつけてやろう。
「おいトイフェルどういうことだ!俺はこれからずっとゴミ収集マンとして生きていかなければならないのか、どうにかならんのか!トイフェルゥ。」
「そ、そんな泣かないでください、私も願われたものがゴミの収集で困惑しているのですよ!一回しか使えないのにどうしてくれるんですから!」
え、なにあの「強く願え」って1回しか使えないの?
「いやそもそもあれ願ったわけじゃないし!時間制限あるなんて聞いてないんだけど!」
「私だってここに1番に来るような人間がまさかほしい能力があやふやだったなんて思わなかったんですよ!」
「頼むからこの能力変えてくれ!」
「無理言わないでくださいよぉ、もう無理です。この星もね…。」
「ちょっとまてどういうことだそりゃあ」
「本来私に一番にたどり着いたものは強力な力を手にします、それこそ星1つ救うくらいの勇者ともてはやされる程度には。ですが今回この星で1番最初に私にたどり着いたのはあなたでそしてその能力はごみ。」
「おいゴミっていうな!ゴミ収集マンだ!」
俺とこの女神トイフェルが話している間に能力を求めてやってきた者たちがあつまり各々がランダムで獲得した己の能力を見て絶望の表情をうかべるもの、にやりとほくそえむもの。様々な人間がここへ集まりそれぞれがあの突然現れた魔物を退治しに赴く。
どうやら能力を付加の儀式が必要なのは最初の一回だけのようだ。まあそのおこなった儀式で獲得した能力がごみなんですけどね。ああいいな、あんなに喜んじゃって、きっといい能力を獲得したんだろな。
俺とトイフェルが瓦礫の上で体育座りをしていると上から声がかかった。
「女神さまと仲良くなるのはいいけどここもそろそろやばい、まだ戦いに有益な能力を獲得した人間が少ないせいかじわりじわりとこっちに魔物が近づいてきている」
そこにいたのはこれ見よがしに灰色のフルプレートに身を包んだ瞬だった。どうやら瞬は100の鎧を自在に換装できる能力のようだ。どうやら灰色の鎧には自分の素早さを挙げる効果があるらしく周りの様子を見てきたようだった。
「ここ以外にも魔物は町中にあふれかえっていた。ここも危ないひと先ず逃げよう」
「そうだな、めちゃくちゃかっこいい能力を獲得した瞬君ありがとう。めちゃくちゃかっこいい能力を獲得した瞬君にはこのまま俺をお姫様抱っこでもしてもらって安全な場所に連れて行ってもらおうかな」
「ああ、まかせろ安全な場所も確保済みだ」
そういってまたたくまに猛々しい赤色の鎧に換装した瞬にお姫様抱っこされてしまう。やだ、かっこいい。これは力を底上げする鎧かなんかなのかな。
「トイフェル様はどうする、二人くらいなら持てるが」
「ふふ、私は女神だから大丈夫だよ」
女神だから大丈夫の理屈はわからないが女神だから大丈夫なのだろう。さあ、いくのだ瞬、この駄女神のことなど放っておけ!
表情に出ていたのか、瞬が諭すように語りかけてくる。
「そう焦るな剣太、お前に対した能力がなくても俺が守ってやるから」
瞬君かっこいい……。まあいい、行け瞬!この女神とおさらばだ!
「おれはこのゴミみたいな能力で世界救ってやるよ!」
「応援はするよ、一応ね」
この駄女神、もとい女神トイフェルの叫びを後目に俺と瞬は瞬の見つけてくれた安全地帯へと向かった。