補習授業編その2
「おい、どうしたんだよ、いきなり」
突然の絶叫で浅葉くんと森谷先生が驚いたような顔で私を見る。
「ちょっと、浅葉くん来て!」
浅葉くんの手をとり、教室の外へと連れ出した。
「痛て、どうしたんだよ、いきなり」
「佐藤次郎さんて校長先生と同じ名前じゃない!?」
「えー、名字が佐藤だってのは知ってるけど下の名前までは知らねぇな」
「校長先生はこの学校の卒業生だし、頬の傷も同じところにある。だから私、佐藤次郎さんは校長先生だと思うの」
「まぁ、校長マニアのお前が言うだから間違えねぇのかもな。でも校長は生きてるしどういことなんだ?」
「……一年生の時の映画鑑賞会で校長先生が
自分は中学生のころ手のつけられない不良で周りの大人を信じられなかったけど、ただ一人自分と向き合ってくれた担任の先生がいたんだって。
でも……夏休み後に突然倒れて検査したらもう手の施しようがない状態で卒業式の2日前に亡くなった。
担任の先生が校長先生に書き残した手紙を見て、不良を止めて、教師目指すようになった。て言ってたよ」
「校長にそんなことがあったのか。なんか、切ないな」
「この話、全く覚えてないの」
「全く。でも、これから俺も少しは校長の話し真面目に聴くわ。それにしても桜井、お前やっぱ変人的記憶力だな」
「もー変人、変人って!! ひいおばあちゃんが言ってたもん。人の話しはよく聴きなさい。自分の可能性と助けなる。って」
「まーまー怒んなって。すげーじゃん本当に助けになってんだから。俺一人だったら終わってた。感謝してるぜ」
私の方を向いてウイングをして笑う。調子いいんだから。
「じゃあ、森谷先生が亡くなった先生でさ迷えし者でいいんだよな」
「おそらくね。よし、森谷先生の思いの残しを叶えよう」
「ああ、そうだな」
決意を胸に私達は教師に戻った。
「おーおかえり。どうしたんだ?」
「クラスの鍵を閉めるのを忘れてて」
適当な理由をつけ、本題に移る。
「あの、佐藤さんてどういう人なんですか。私には本当に根っからのワルには思えないような」
森谷先生は問いかけた。これは未来の佐藤さんを知っているから言える。
「面白いことを言うな君は」
言葉とは裏腹に表情は穏やかだった。
「佐藤は誰かに自分を認めてほしい。かまってほしいのかもな」
森谷先生は続けて。
「あまり、いい家庭環境じゃないみないで、小さなころから放置状態だったらしい。家に帰っても誰もいない食べるものもなく、店からかっぱらっていたらしい」
「子どものころの話しも知っているんですね」
「佐藤の家に訪問している過程で隣人にいろいろ教えてもらってね。ただ二年生のころから担任で何百回と家庭訪問したが親に会えたのほんの数回。佐藤が補導されようが怪我して救急車で運ばれしようが無関心でね」
「信じられないような酷い親だな」
憤慨して浅葉くんが言う。
「家庭を何百回も訪問するって大変ですね」
「俺も小さいころに母親を亡くして、父親は仕事であまりかまってもらえなかったんだ。
だから、いろいろ知っていくうちに自分と佐藤を重ねるようになった」
私情で動いて教師失格。自己満足だと森谷先生は溜め息をついた。
森谷先生は教師の枠組みを越えて校長先生に接していたのか。
「私、佐藤さんを探しに行っています」